2016年02月27日

ザ・ウェイブ60章: ユニコーンのクローゼット

ザ・ウェイブ60章: ユニコーンのクローゼット
http://cassiopaea.org/2012/02/06/the-wave-chapter-60-the-unicorns-closet/


1977年9月11日、パウル・ヘレはアパートの天井から、とても大きなドスンという音がするのを聞いた ― 「まるで誰かが、床の上で跳ねたようだった」。続けてその直後には、「血も凍るような叫び声」がしたのである。彼が住んでいたのは「大学の近所」で、こういう事もそう珍しくはなかったし、「騒がしい音」も長くは続かなかったので、彼はこれに関して何もせず、それ以上は何も考えなかった。何と言っても、上の階に住んでいる「グル」のアイラ・アインホーンを変人が訪ねて来て、部屋で変な事をするのはしょっちゅうだった。彼とガールフレンドのホリー・マダックスとの間も喧嘩が絶えなかった。

その日のうちに、アイラは、ハイスクールを卒業したばかりのジルとシャロンという2人の若い娘たちとドライブに出かけた。彼女たちは超常現象の世界のコンタクト窓口として、アイラを紹介されていたのだ。普通は彼女たちの方が彼のアパートにやって来て、アイラとセッションを行う中で、瞑想あるいはアストラル体での旅行のような「心霊術」を授けられていたようである。だがこの日に限っては、レース通り3411にあるアイラのアパートで「セッション」を行う代わりに、彼はジルのクルマで、フィラデルフィアのスクールキル川沿いを走るウェスト・リバー・ドライブまでドライブしようと提案したのだった。この時の様子をジルはこう述べている。「アイラは切羽詰まった感じだったわ。私たちに頼みがあると言ったのよ」

アイラ「実に厄介なトラブルに巻き込まれたんだ。僕はとても重要な書類が入った旅行用トランクを手に入れてしまった。それはロシア人の文書で、処分しなくちゃならない」

彼は2人に対して、トランクをジルの車に積んで運んで行き、川に捨てて欲しいと頼んだ。

「彼に言われて、私たちは危うく説得されるところだったわ。シャロンと私は互いに顔を見合わせたのよ。なんておかしな話なのってね。つまり、どうして彼はそんなものを処分したいのかしら?と思ったの」

やろうとしてみたところ、トランクはジルのクルマに入らなかったので、このプロジェクトは放棄されたという。

翌9月12日、アイラの母、ビー・アインホーンに、息子から電話がかかってきた。「ママ、どうしよう。昨夜、ホリーが帰って来なかったんだ。彼女は何も持たずに出たんだよ。おカネも持ってないんだ。彼女、どこに居るんだろう?」 ビーが、病院や友人等、息子がチェックすべき場所を一通り挙げると、アイラは母親に対して、そういう場所は全部当たったと請け合った。母親によれば、これほどパニックに陥って、感情的な声を息子が出すのは聞いたことがなかったという。

実際には、アイラはホリーの友達の誰にも電話などしていなかった。彼は彼女の勤め先にすら電話していなかった ― 彼が言うには、そこが彼女の「目的地」、彼が最後に彼女の姿を見た場所だったのだが。心配だと言うどころか、アイラは、彼女の友人たちに電話して、「心配には及ばない。ホリーが居なくなったことには何の不審な点もない」と話していたのである!

9月14日、ホリーの友人の1人、ソール・ラピドゥスが、ニューヨークでの待ち合わせに彼女が来ないと言って、アンドリア・プハリッチに連絡した。プハリッチはアイラとも仲が良かったので、ホリーがどこに居て何をしているのか、アイラに頼んで訊き出して欲しいというのだ。プハリッチはこの時のことをこう述べている。「アイラはホリーのことは話したくなさそうにして、電話を切ってしまった。とてもぶっきらぼうだったよ。全然話そうとしないんだ。彼女は行ってしまった、としか言わなかった。私がソールにそう伝えると、ソールは『何てことだ!彼女、きっと殺されたんだ』と言う。その時私はこう言った。『冗談じゃない、ソール。アイラはハエも殺さないヤツじゃないか』」

数時間後、アイラは彼ともホリーとも親しい、ある友人にこう言った。「ホリーから連絡があった。彼女は元気だけど、放っておいて欲しいと言うんだ。1週間以内にまた電話するそうだ。この事をニューヨークに居るホリーの友人のソールにも伝えてくれないか」

しかし、アイラは、自分の「心配」を伝えて、すっかり動揺させたのに拘わらず、受け取ったというこのメッセージを母親には話していない。同様に2週間後、彼が2人の友人に、ホリーがどこに居るのか心配だと話した際にも、このホリーからのメッセージについては話さなかった。レストランでアイラは彼らに、「ホリーは行ってしまった。あれ以来彼女とは話していないんだ」と言ったのだ!

一体、どちらなのだろう?アイラは動揺し困惑していたのだろうか?それとも、本当にホリーと連絡が取れていて、彼女が元気だと確信していたのだろうか?これは単に、ホリーのことを心配して、彼女を探そうとする人たちにそうさせまいとして、彼女が電話してきて元気だと言っていたと見せかけているだけだったのだろう。ホリーが居なくなった事を、そんなこともあるのだろうという風に受け取りたいと思った人たちは、アイラは心配していて、同情が必要だという物語を真に受けてしまったのである。

1977年秋、アイラの部屋の階下の住人であるパウル・ヘレとロン・ゲルツァーは、大学での最高学年になろうとしていた。9月20日、パウルは結婚式に呼ばれて出かけていたので、その週末、臭いに最初に気付いたのは、ロン・ゲルツァーだった。それはキッチンのクローゼットからしてきた。生物学部生だったゲルツァーは、最初の印象について、それは「血のような臭いだった」と述べている。彼は臭いの出所を突き止めようとして、クローゼットの天井裏に入る為の点検口を押し上げたのだが、そこに見えたのは水のようだった。彼は屋外に出て上階を眺め、なにかが漏れて来ているらしいクローゼットの真上にあるのが何か見極めようとした。それはアインホーンの部屋のベランダだった。ゲルツァーはアイラのところに行き、「ベランダから何か漏れていないか分からないか」と尋ねた。アイラは涼しい顔をして、「特に思い当たらないな」と言った。

9月26日、旅行から戻って来たパウル・ヘレがゲルツァーと一緒に借りている部屋に入った途端、「ひどい異臭」が鼻をついた。キッチンに入ると、異臭は吐き気を催すような、圧倒的なものとなった。
パウル・ヘレ「人間の排泄物の臭いよりもずっと強烈で、我慢できないものだった」

悪臭に耐えられなくなったヘレは、裏のアパートに住んでいる管理人の老人夫婦のところに苦情を言いに行った。彼らはヘレに、「私たちも臭くて参ってるんだ」と言った。「あまりひどいので、キッチンで食事が出来ないんだよ。もし、キミが出所を突き止めて掃除してくれたら、費用は払わせてもらうよ」

ヘレ、ゲルツァー、そして友人のステファニー・デマーコは、清掃用具に身を固めて、掃討ミッションを帯びてキッチンに足を踏み入れた。この頃には、そこに行くだけでも強い意志が必要となっていた。デマーコは「死体みたいな臭いね」と冗談を言ったが、パウル・ヘレは「バカな事を言うなよ」と一蹴した。ヘレはクローゼットに入る役目に選ばれた。彼は点検口を見上げるとそれを引き開けた。彼が天井裏に見たのは、茶色がかった染みで、天井に塗られた漆喰の隙間を通り抜けて落ちたもののせいだった。それは殆ど乾いていた。彼はこれが臭いの原因だと判断し、それにアンモニアをかけた。全部乾いても、まだ臭いがした。彼はライゾール(◆消毒剤、トイレ洗剤、一般洗剤)
http://lasoramamez.blog66.fc2.com/blog-entry-254.html
や塩素系漂白剤の原液も試したが、いずれも臭いには歯が立たなかった。そこで彼は、臭いのする場所を蔽うようにペンキを塗った。これも効かなかった。3人組は、創造性を発揮する必要があると気付き、天井裏一杯にオドイーターを詰め込んだ。さし当り問題は解決した。

1か月経った頃、大雨が降って、天井から雨が漏れ始めた。臭いがぶり返したので、彼らは再び問題に対処しなければならなかった。掃除し、ペンキを塗って、オドイーターを詰めた。数か月後、ついに臭いは消えてきたが、ヘレとゲルツァーがそこに住んで居る間、クローゼットの近辺ではかすかに臭いがした。

管理人は、木が腐ったのが原因だと考えた。ヘレは天井裏でワナにかかって死んだリスが原因に違いないと確信していた。彼はある時、巻き尺を持って戸外に出て、リスの死体がひっかかっている正確な場所を突き止めようとした。その結果分かったのは、アイラ・アインホーンのスクリーンド・ポーチ(◆四方に網戸のようなものを張ったベランダ)
にあるクローゼットが、ヘレのキッチンのクローゼットの真上にあるということだった。

翌1978年の夏、アインホーンは部屋を又貸ししなかった。彼がこのアパートに住んで7年になるのだが、これは初めてのことだった。

1978年9月、なおも異臭が続いているという苦情が増えていたので、建物のオーナーは、アイラ・アインホーンのベランダにあると思われる、この問題の原因となっている漏れを修理する作業を発注した。この作業のために雇われた屋根職人は、このベランダの屋根は元々1977年初頭にタールを塗ってあったと答えた。その1年後にオーナーから、彼は異臭に関する苦情を受けたのである。彼は、タールに入ったヒビを通って淀んだ水が漏れたのかも知れないと考えた。この会社は、屋根にタールを塗り直した。この作業予定を知るや、直ちにアイラは、オーナーにコンタクトして、この修理によって彼のベランダがどうなるか気掛かりだと苦情を述べた。オーナーは、アインホーンがプライバシーに関して要求してくるのには慣れていたので、この苦情がさして異常だとは思わなかった。アイラは修理職人に対して、彼のベランダにあるクローゼットに近寄らないよう指示した。

一方、ホリー・マダックスの家族は、娘が習慣的に行っていた定期連絡がなくなった事を心配し、10月4日に彼女の母親がどうした事だろうかとアイラに電話してきた。「僕も電話して、訊こう/頼もうと思っていたところなんだ」とアイラは繰り返した。
アイラ「ホリーは9月初めの数日はフィラデルフィアに居たんだけど、その後居なくなってしまったんだ」
ホリーの母「ホリーは新しいアパートに引っ越すと言って、住所を連絡してきたのよ。だけど、そちらに手紙を送っても返事を寄越さないの」
アイラ「もう止めてもらえないかな。ホリー宛の手紙がたまってうんざりなんだ」

うわぁ!何と冷酷な!

2週間が過ぎ、ホリーと普段から連絡を取り合っていた、彼女の母親以外の家族も、彼女から連絡が無いのはどうしたことなのかと、マダックス家に問い合わせを寄越し始めた。10月20日、ホリーの母親であるリズ・マダックスは、再びアイラ・アインホーンに電話を掛けたのだが、今回は、アイラのはぐらかし戦法に乗らないよう、質問をリストにしておいた。

マダックス夫人「あの娘、何時フィラデルフィアから出て行ったの?」

アイラ「3週間か4週間前だよ。店に買い物に行くと言って出たきり戻って来なかったんだ。実は、彼女が出て行く時、僕は風呂に入ってたんだよ。彼女が戻って来ないので、僕は知り合い全員に電話したし、警察や病院にも確認したんだけど、誰も何も知らないんだ。彼女の友達とも話したんだけど。。。」

マダックス夫人「ジョイス・ペチェックとは?」

アイラ:「Yes. 彼女、あちこちに家があるでしょう。だから、彼女をつかまえるのは大変だったんだけど、ようやく連絡が取れたんだ。そしたら彼女、『ホリーから3、4か月連絡が無くても心配しないで』と言うんだよ。ホリーがしばらく一人で居たがっているということなのか、それとも、ペチェックはホリーの居場所を知ってるけど僕にはナイショだということなのかは分からない。僕にだけは言えないという感じでね」

マダックス家の人々は、アイラからあまり情報を得ることはできなかったのだが、ここでまた物語が変わっているのに気付いたと思う。今や、ホリーがアイラに電話したのではなく、彼が第3者に電話して、その人が彼に、ホリーから『心配しないで』と言われたというのである。これらの話を、誰も比較チェックなどしないと、アイラは本当に思っていたのだろうか?どう見ても彼は、そんな可能性については考えて居なかった。

マダックス家の人々はホリーに何が起こったのか調べようと、幾つかのアプローチを試みたが、ついに、ホリーの生まれ故郷であるテキサス州タイラーに住む、彼女の友人の1人であるローレンス・ウェルズとコンタクトした。彼は連邦司法次官補であり、病院や死体公示所に照会しても該当者が居ないことを確認した上で、正式にフィラデルフィア市当局にホリーの失踪を報告した。彼はまた、インターポールに対しても、彼女の失踪に関して注意を喚起し、さらにはアイラ・アインホーン当人にも電話した。アイラは風呂に入っていたという同じ話を繰り返した。ウェルズはこれを信じず、フィラデルフィア市警に直接電話して、1人の刑事に本件につき話すと、刑事は詳しく調べると約束した。

レーン刑事は幾つか聞き込みを行い、ホリーの主治医(ホリーは糖尿病患者だった)や、彼女のセラピストであるマリアン・クーパースミスとも話したが、彼女は自殺するとは思えないということだった。ホリーは銀行に525万円の預金があったが(※当時の1ドル=250円)、行方不明になって以降、出し入れが無かった。

この刑事はアインホーンを訪ねてきたが、アイラは風呂に入っていた話をした。だが、アイラは刑事に、「ホリーが僕に電話してきた」という話もし、彼女がアイラに「私は大丈夫よ。私を探さないで。週に1度は電話するから」と言ったと述べた。続けて彼はこう言った。「彼女がこの約束を守らなかったので、僕は心配になったんだ。彼女が失踪したことを、どうして警察に報告しなかったかと言うと、彼女は大人だから、警察でも受け付けないと言われたからだ」 これは正しかったので、警察の捜査は終わった。

1978年1月、マダックス家の人々は、元FBIタイラー支局長のR.J.スティーブンスにコンタクトした。彼はリタイアして、私立探偵になったばかりだった。スティーブンスがジョイス・ペチェックにコンタクトすると、彼女はこう書いて寄越した。「ホリーの居場所は知らないわ。マダックス家の人から、マーシャル・リーバーにコンタクトしたらどうかしら。彼は霊媒だから、おそらくホリーの居場所について、お告げをしてくれるでしょう」

ああ、それはそうだ。

マダックス家の人たちは、あらゆる手立てを尽くしたいと思ったので、リーバーにコンタクトした。
リーバー「私はこれから旅に出るところだが、しばらくしたら戻る」
だが、彼は戻らなかった。中にはこういう「霊媒」も居るものだ。

スティーブンスは、フィラデルフィアに住む相棒が必要だと思い、元FBIのもう1人の男にコンタクトした。彼もまた今では私立探偵をしていた:J.ロバート・ピアースである。ピアースは普通なら行方不明者探しは行わないのだが、元FBIの人間からの頼みなら一肌脱ごうと、ホリー・マダックス事件を引き受けることにしたのだった。

1978年3月、スティーブンスはフィラデルフィアに飛び、2人の探偵は互いの情報を交換し合い、アイラと直に会って尋問する計画を練った。2人はアポを取ろうと電話した。アイラは断った。環境保護「イベント」である『サンデイ』の準備で大忙しだという。スティーブンスが食い下がると、彼はこう言った。「僕はホリーの両親に対して愛情を感じていない。実は、両親のもとを離れたいというのが、彼女が失踪した主な理由だったんだ!」(サイコパスの使う標準的なトリックである!「犠牲者のせいにせよ」だ。)

スティーブンス「ホリーが関係を断ったのは、両親だけではなく、友人たちやアイラ、キミともじゃないか」
アイラ「それはそうだが、ホリーは全ての結び付きを断ち切ることで、人生を変えたかったんだ」

スティーブンス「彼女の両親は、彼女の人生に干渉する気などない。彼らはただ彼女が無事か知りたいだけだ」
アイラ「ホリーが見つけて欲しくないと思っている以上、協力はできない」
だが、この時アイラはスティーブンスに、彼が風呂に入っていた話をしておきながら、「ホリーが電話して来て、彼女は無事だと言った」とバリエーションを付け加えたのである。

経験を積んだ「Gメン」であるスティーブンスとピアースは、アイラが捜査に協力するのを避けて、嫌がる素振りをみせたことについて話し合った。ホリーとごく親しく、彼女を愛していると主張する人間が、単に両親のために彼女の無事を確認するためだけの捜査に対して、こうも協力をしぶる理由が分からなかった。アイラが、彼自身も含めて、ホリーと連絡を取り合っている人間を誰も知らないと認めておきながら、捜査協力を拒むのは非常に疑わしかった。スティーブン・レヴィーが『ユニコーンの秘密』で述べているように、この時、アインホーンは容疑者となった。

スティーブンスがテキサスに戻ったので、R.J.ピアースがフィラデルフィアでの捜査を続けた。彼は本件が「逃亡」事件であるかのようにアプローチすることにした。彼女を知る人々と人脈を作り、彼女と最後に会ったのが誰であり、それが何時で、どんな状況においてだったか解明しようとしたのである。まずは、アイラの両親。「アイラが、ホリーの無事を証明するのに協力してくれないのには参ったわ」 次にピアースは、レース通り3411にあるアパートの管理人に聞き込みを行った。「ホリーは大好きだが、アイラは嫌いだ。変人だからね。UFOか何かのグルだかコンサルタントだと言うけど、一体何で生計を立ててるもんだか」
ピアース「アインホーンがホリーに危害を加えたと思いますか」
管理人「確かにそうじゃないかと話し合ったことはあるよ。でも、その線はないだろうという結論になったんだ。だって、アイラは非暴力の唱道者として有名だからねえ」

アイラの住むアパートの正面に歩いて戻って来たピアースは、集合インターホンのアイラの部屋のベルを鳴らすと、招じ入れられた。ピアースが階段を上りきる前に、アイラはドアの前に来ていて、訪問者が誰か知ろうとした。スティーブン・レヴィーの本に、この出会いについて述べたピアースの言葉が載っている:


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彼は絹のキモノのようなものを纏って現れた。彼はドアを全部は開かなかったので、全体の服装は見えなかった。彼は際立って青い目をしており、ずんぐりした体型で、明るい茶色の顎鬚をふさふさとはやし、同じ色のかなりの長髪をしていた。見かけは大人しそうだった。僅かばかし部屋の中が見えたが、家具だらけではなく、整然とした室内だったと思う。アイラ・アインホーンは、断然たる調子で、「ホリーの両親の手助けをするつもりはない」と言った。「僕はホリーの居場所を知らないけど、もし知ってたら話すさ」
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(Levy, 1988)


ピアースは次にフィラデルフィア警察の人々に声を掛けた。そのうちの1人、ジョージ・フェンツルは、アインホーンを知っており、『サンデイ』集会があったせいで、最近も連絡を取り合っていた。
ピアース「アイラと雑談したりするかい?」
フェンツル「するよ。そんな折に再び念を押されたんだけど、アイラはホリーを探す人間を手伝う気はないそうだ。あと、こうも言っていたよ。本件は、ありきたりの失踪事件にしては、探偵に、元FBI、そして今度は警視正と、注目の度合いが普通でなくなってきているってね。『どういうことかと言えばもちろん、単にホリーが居なくなったというだけでなく、僕アイラに注目が集まっているからだ』 私がアイラに『物事をはっきりさせるためだから、手伝って欲しい』と頼んだら、アイラは『そうしよう』と約束してくれたよ。そしたら、2、3週間前にアイラから電話があって、こう言うんだ。『友人たちと議論したてんだよ。ホリーは「国外に居る」んだろうってね』 だから私自身も、何週間かしたら外国に行って幾らかチェックしてみようと思うんだ」

ジョージ・フェンツルから、この有望な情報を伝え聞いたピアースは、こう尋ねた:「アイラ・アインホーンは、ホリー・マダックスに危害を加えただろうか?」
フェンツル「アイラが変わっているのは認めるよ。ミーティングを行おうという手紙を寄越すと、1週間後には、予告もなしにオフィスにやってくるんだからね。でも、アイラ・アインホーンが非暴力を唱導・実践していて、警視正にはそれを否定する証拠がないことは、みんな知ってるよ」

情報を発掘して行くうち、ピアースはホリーの知人の1人と話すことができた。この男性は、ホリーが居なくなる数週間前に、ファイアー・アイランドにあるジョイス・ペチェックの家で、ホリーと話したのだという。1978年の8月末に、この男性はピアースにこう言った。「ホリーは、『アインホーンとはもう永久に別れたの。今はソールという人と付き合ってるわ』と言っていた」 さらにこの男性はピアースに、アンドリア・プハリッチのことも話したのだった。

元FBIの人間であるR.J.ピアースは、プハリッチの「波乱万丈の経歴」については何も知らなかった。実は、偶然にもニューヨーク州オシニングの、プハリッチの3階建の家=「超能力少年少女(スペースキッズ)が宇宙人とコンタクトするという極めて刺激的な実験」の本部(『ターキーファーム』)が、この頃焼け落ちたのだ。警察は放火によるものとみていた。

(※『火星+エジプト文明の建造者「9神」との接触―シリウス起源の超知性との聖なる扉「スターゲート」の研究 (超知ライブラリー)』作者: リンピクネット,クライブプリンス,Lynn Picknett,Clive Prince,、訳者:林陽の259ページあたりでアインホーンとプハリッチの関わりにつき、紹介されています ※※)

ピアースは、プハリッチの家の火事の調査に、元FBIエージェントであるクライド・オルバーを派遣した。この火事と、ホリーの失踪との間に何らかの繋がりがないか見極めるためである。プハリッチはメキシコに姿をくらましたと噂されていたが、隣人たちからはターキーファームで「奇妙な事が行われている」という証言が尽きなかった。隣人たちによると、これらのスペースキッズは、「詳細不明の、恐らくは異常な実験」のために、世界じゅうから集められたという。

オルバーは、焼け落ちる前のプハリッチのターキーファームに住んでいた「スペースキッズ」のうちの3人を突き止めた。彼らはおそらく、プハリッチからかなり酷い扱いを受けていると感じていただろう。というのも、プハリッチはいきなり姿をくらまして、彼らを捨てたからだ。だが、彼らはアイラのことを知っていた。実は、アイラをごく最近見かけたと、彼らは述べたのだ:火事の翌日か2日後、アイラはどこからともなく姿を現わし、事件記者を連れて来て火事の調査をさせると約束したのだという。

記録資料のこの部分を読んだ私は、大きな疑問を感じたと認めざるを得ない。すなわち、誰かがアイラをやっつけようと躍起になっており、彼の行っていることが危険なのだというアイディアを、アイラが人々に抱かせようとし始めたのは、一体何時だったのか?ということだ。アイラと一緒にブラブラしている、明らかに騙されやすい人々の集団が、自分達は皆、エキサイティングだが危険な「シークレットガバメント」との「いたちごっこ」の類をプレイしていると考え始めたのは、一体いつだったのだろう?誰がこのアイディアを思い付いたのだろう?推し進めたのは誰だろう?そこで思ったのだが、プハリッチと一緒にブラブラしていた人々皆にとって、誰かが彼らを狙っているというのは、実に便利な考え方ではないか ― 当然彼らは、プハリッチの家が放火されたのだと思った。このような考えはもちろんのこと、彼は「無実の罪を着せられた」というアインホーン自身の主張の信ぴょう性を大いに高めるものだ。これはアイラの友人たちにとって、ショッキングながらもとても説得力ある考え方だったので、彼らはアイラを信じて支援したいと思ったことだろう。

実は、これはサイコパスが用いる標準的な策略である:実際に、ある種の破壊を行うことで、自分が攻撃され、ストーキングされ、その他何らかの危険にさらされているというイメージをでっち上げることによって、難局にも「勇敢かつ毅然と耐えている」ということで、同情と支援を生むのである。だが、ここでもまた、言葉と行動が一致していないのがこれを見破る手掛かりとなる。

アイラ・アインホーンは、アンドリア・プハリッチの支持者たちをショックに陥らせ、混乱させることにより、アイラが無実の罪を着せられているという主張を信じさせようとして、プハリッチの家に火を点けたのだろうか?何と言ってもこれは、アイラが初めてスティーブンスとピアースからアプローチを受けた3月に起きたのだ。フェンツルがアイラに話しかけ、アイラが彼に対して、ホリーの失踪事件は注目の度合いが普通でなくなってきているとコメントしたのは、その後の事だった。その後も彼は、極悪グループによってストーキングされていると口にして緊張感を高めて行き、この印象を「確かなものにする」ための計画を立て始めたのだろうか?アンドリア・プハリッチの家が火事になったのは、「超常現象」への興味を貫く、「財力があり趣味もいい」人々が、プハリッチの行っていた実験が「危険」なものであり、アイラもまた危険にさらされていると納得するよう仕組む計画の一環だったのだろうか?アイラは、次は自分がストーキングされ、始末される「番」だと印象付けるために、プハリッチの家に放火したということなのだろうか?彼はプハリッチ自身にもこうした考えを信じさせる影響力を持っていて、プハリッチが自分の支持者にこうした考えを広めるよう仕向けさせることができたのだろうか?これは、この後当局が、ホリーが居なくなった事に関して質問して来る際に、こうした人びとを後ろ盾にしようと企図したものでもあったのだろうか?既にアイラに接触してきていた「元FBIのエージェントたち」は、そのように問い詰め始めていたのだろうか?だから、プハリッチの家が燃えた翌日か2日後に、アイラは姿を現わし、事件記者を連れて来て火事の調査をさせると約束したのだろうか?

その後の数年間、プハリッチと、彼が持っていたと思われる政府へのコネが効かなくなったという噂が飛び交った。だが、本当にそうだったのだろうか?


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クライド・オルバーは、保険会社の放火捜査員にコンタクトして、プハリッチの家の火事についての考えを尋ねた。捜査員が出していた結論は、プハリッチに素っ気なくされた、あるサイキックリサーチ志望者が主犯であるというものだった。この容疑者は以前プハリッチの留守電に、「自分に一体何が起きているのか分からない!気が狂いそうだ!」という言葉を残していた。彼はある日ターキーファームに姿を現わし、自分の抱える問題を聞いてくれるよう皆に求めた。彼の説明によれば、こうした問題の1つとは、地球外生命体によるハラスメントだった。
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(Levy, 1988)


8月15日、保険調査員がプハリッチに対して面談を行った。彼はプハリッチが実際に、「数冊の著書がある医師で、超常現象のエキスパート」であることを確認した。プハリッチは保険会社に保険金の支払いを求める上で必要な情報ということで、彼の収入源についても明らかにした:デパウリ卿なる人物からの寄付が250万円(※当時の1ドル=250円)、デルブックス社から出すことになっていた、テスラに関する本の執筆料の前払い金が375万円;ユリ・ゲラーの映画化権が1250万円、決定済みの2件の講演料がそれぞれ1万2500円と1万7500円というのであった。

保険調査員は、プハリッチがイカレたヤツだと考えた。「プハリッチが、多数のUFOを観察してきたし、地球外生命体とコミュニケートしてきたと述べたのは注目すべきことだ」 火事が起きた時、プハリッチはロサンゼルスに居たのだが、彼は保険調査員に対して、こう述べたという。「UFOにハラスメントされたという留守電男の大言壮語はお馴染みのことだ。それよりも、この火事はCIAが私に対して警告を始めたものと見て間違いないだろう。というのも、私は(アインホーン経由で)ソビエトがサイキック戦争の実験を行っている証拠を広めているからだ」

さて、ここで立ち止まって、しばし考えてみよう。要するにこういうことなのだ:プハリッチ、アインホーン、その他多くの人たちはこの時以降、ロシアによるサイコトロニクス戦争の脅威に関する情報を広めたために、CIAに狙われているという考えを広めてきたのである。プハリッチは保険調査員に対して、何と呆れた話をしたものだろう。こんないい加減な話をしたのだから、調査員はプハリッチが基地外であり、自分で家に火を点けたと考えたに違いない。分別のある人間なら、保険調査員に対して、一体どうしてこんな話ができようか?

これで思い出したのが、改装後の我が家に保険を掛けた時に、保険被害査定人がやって来た時のことである。私はこの査定人が、サイコマンティアムが置いてある物置に入って行きはしないかと気を揉んだものだ。保険被害査定人に対して、あの黒いテントのことをどう説明したらいいのだろう?保険会社が私たちを変人だと評価して、保険料を引き上げられたらどうしよう?何と言っても、保険数理士がどうやって保険料率をはじき出すかのからくりなど誰も知らないのだ。保険会社と交渉したことのある人ならば、できるだけ「正常な中年」だと見られたいものである。私の場合は、あの部屋をマイクロフィッシュを見るのにも使っていたので、私はビューワーを真ん中の目立つ場所に移しておいて、何も言わなかった。
査定人「どんなものを見るんですか?」
私「系図よ」
これは本当の事を言っただけだった。これは「正常」なのだ。

ということで、プハリッチの話に戻ると:彼は、自分の主張次第によっては保険金の支払いを認めることもやめることもできる保険調査員に対して、あんな事を言ったというのか?プハリッチ(※1918-1995)は天才だったのだろうが、失礼ながらこの一事からして、彼の現実認識には疑問を抱かざるを得ない。

ここでもう1つ解釈が難しいのは:この時期、アメリカ政府が、「ロシアの脅威」という考え方を広めようと躍起になっていたのはどうなったのだろうか?ということだ。もしそうなのだとすると ― 歴史的に言って実際そうだったのだが ―、ロシア人が、サイキック実験とELF(超低周波電磁波)で、アメリカ人の脳をゼリーにしてしまうような卑劣な事を行うかも知れないという噂が広まるのに対して、一体どうしてCIAが反対などしようか?つまり、それなら結局CIAの観方と一致しているではないか。どうしてアイラ・アインホーンは、CIAとロシア人が、彼に対して腹を立てているなどと主張したのだろうか?これはもちろん、こういうことだろう。すなわち、彼が裁判で当局の仕業だと言っておけば、当局は真相が明らかにならないことを望むからだ。サイコパスがつく嘘というものは、二重三重に捻じ曲げられ、誰にも真相が分からない秘密になっているのだ。「君が捕らえられても当局は一切関知しないから、そのつもりで。尚この録音は5秒以内に自動的に消滅する」という類のものだ。

何と便利な。

という風に幾らか考えを巡らせたところで、アイラとホリーの話に戻るとしよう。

数多くの証人の話を聞いて、報告書をまとめた結果ピアースは、ホリー・マダックスがアイラ・アインホーンに殺されたことを確信した。1979年の1月3日から3月にかけて、ピアースはフィラデルフィア警察に行動を起こさせようと手を尽くしたのだが、本件担当のケネス・カーシオ刑事はまるで無反応だった。そこでJ.R.ピアースは、1979年3月7日、カーシオをとばして直接警察本部長と交渉した。そうして本件担当となった刑事が、マイケル・J. チットウッドだった。

チットウッドは評価の分かれる「ダーティー・ハリー」タイプの男で、銃を持って歩かないにも拘わらず、フィラデルフィア・インクワイアラー紙の記者から「殺人事件の容疑者を手荒く取り調べる男」と酷評された結果、殺人課から外されていた。まるで映画のようだが、その頃担当した人質事件での交渉が気に入られたために、殺人課に戻っていたチットウッドが復帰後最初に手掛けたのがアインホーン事件だった。チットウッドがピアースの報告書を読むと、彼もまた、アイラ・アインホーンが殺人者だと悟った。彼は捜査令状を取るべく、情報の裏を取りに動き出した。

チットウッドは市の検死官のところに行き、アインホーンのクローゼットからしてくる異臭の問題を話した。検死官ハルバート・フィリンガーはチットウッドに対してこう言った。「アインホーンのアパートに行けば、死体が見つかるさ」 チットウッドはそのような考えを単純に信じることはできなかった。正気な人間なら、部屋の中に死体を置いておける訳がなかった。血が流れだして、短時間のうちに床をびしょ濡れにしてしまった筈だから、死体を一時的にクローゼットに隠しておくことはあっても、今ではきっとなくなってしまっているだろう!と確信したのである。何と言っても18カ月経っているのだ。まずは部屋の中に入って、床を取り外し、鑑識に回して、人間の血やタンパク質が検出されないか判定できるよう、捜査令状が欲しかった。証拠としてこれ以上を望む気はなかった。

ピアースの報告書を受け取ってから3週間後の3月28日、マイケル・チットウッド、パターソン警部、機動隊員3名、科学捜査研究所化学科の技術者2名が、バール、電動工具を装備し、カメラと令状を持って、レース通り3411のアイラ・アインホーンの部屋のブザーを鳴らした。

9時10分前だったが、アイラ・アインホーンはまだ寝ていた。彼はローブを掴むと、アパートの入り口側のドアのカギを開けるためのボタンを押した。チットウッドたちがまだ階段を登っているうちに、アインホーンはドアを開けて、玄関ホールを凝視していた。彼はローブがはだけた半裸体で、悪評高い体臭を撒き散らしながら、そこに立っていた。(アイラは自分が「神のような」存在であると信じていたので、死すべき人間たちは、彼の分泌物を吸い込み、味わって、ありがたく思うべきなのだった。)

チットウッド刑事はそれがアイラだと分かったのでアイラに対して、「捜査令状が出ている」と言った。アインホーンは笑った。「何を探すんだ?」

チットウッドは細心の注意を払った。後で捜査令状が無効になるような過ちを犯す訳にはいかなかった。彼は令状をアインホーンに手渡し、「注意して読んで欲しい」と頼んだ。それは35ページもあった。そこに書かれていたのは基本的に、アインホーンのアパートにおいて、ホリーことヘレン・マダックスの失踪に関するいかなる証拠を探す許可をも警察に与えるということだった。

アインホーンは警察に対して、同じ物語を繰り返し話した。「1977年9月から、彼女には会っていない。彼女は買い物に出かけたまま戻らなかった」 アインホーンはとても穏やかだった。「服を着てもらえないだろうか」とマイケル・チットウッドに丁寧に言われ、彼は「いいだろう」と答えた。

数日後、アインホーンはレポーターに対して次のように述べている:


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僕の反応はこれだけだった。もちろん十分に自制心を働かせていた。即座に僕は、自己催眠指令を自分に出したんだ。「落ち着け」とね。冷静にして出来る限り注意深く様子を注視するようにした。それを彼らは冷淡だと解釈したようだが、僕は単に観察力を最大限に発揮しようとしていただけなんだ。というのも、僕は厳しい状況におかれていて、目の前には銃や、その他の装備品一式があった。だから、素早く行動しなければ、目茶苦茶にされてしまう。僕は何かをしようという気はなかった。だから、彼らが裏のポーチに置いてあるクローゼットに向かって進んで行った時も、僕は文字通り、それを黙って観察していたんだ。
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警察官チームは、アパートの他の部分には何の関心もなかったが、チットウッドは、これほど沢山本が置かれた部屋は見た事が無いと思った。彼らは真っ直ぐにクローゼットへと向かった。クローゼットには、分厚い南京錠が掛けてあったので、刑事はアインホーンに「クローゼットのカギは持っているか」と尋ねた。
アイラ「どこにあるか分からないな」

チットウッド「カギを壊さなくてはならない」

アイラ「壊さなくてはならないな」

機動隊のカメラマンが施錠された扉の写真を撮った。それからチットウッドがバールでカギを壊すと、再び扉の写真が撮られた。

クローゼットは幅137cm、高さ244cm、奥行きは91cmしかなかった。幅61cmの棚には、所狭しと、箱や ― 幾つかは「マダックス」と書かれていた ―、バッグ、靴、その他のガラクタが並んでいる。床には「ホリー・マダックス」と書かれたスーツケースが置かれていた。スーツケースの後ろには、黒い旅行用トランクがあった。

クローゼット内部の写真が撮られた後、チットウッド刑事が、1品ずつ取り出し始めた。品物は取り出されるたびに、個々に撮影され、調べられた。箱の中身は、キッチン用品や衣服、教科書、論文等々だった。スーツケースの中身は、衣服や、2年以上前にホリー・マダックスが受け取った何通かの手紙だった。ホリーのハンドバッグは、箱に入れられて、トランクの上に置かれていた。バッグの中には、彼女の運転免許証と社会保障カードが入っていた。

クローゼット内の品物を1つずつ取り出して行くうち、チットウッド刑事は不快な臭いに気付いたので、カメラマンが全ての品を記録できるよう、都度手を止めた。これが行われている間、アイラはアパートの居間とクローゼットの間を繰り返し行ったり来たりしていた。後にチットウッドは「アインホーンの中で恐怖心が高まるのを感じた」と言っている。アインホーンの方は、後にこう語った。「僕は単に瞑想状態に居て観察していただけであり、こうして侵入捜査されるのは、僕が懸命に、サイコトロニクス兵器のような極秘事項に関する機密情報を広めたことと関係があるのだろうと思っていた」

ここで、マイケル・チットウッドがトランクを開ける準備が整った。それは、汚い、畳み込まれた1枚のカーペットの上に置かれていた。その大きさは、長さ138cm、幅76cm、奥行き76cmだった。カギがかかっていた。アイラは再びカギの所在を訊かれたが、今度も彼は「持ってない」と言った。カギが取り壊される前と後に、トランクの写真が撮られた。トランクの蓋を開けるなり、異臭がチットウッドを襲った。彼はゴム手袋を取ってくれるよう頼んだ。

トランクの中の天辺には新聞があった。一番新しいものの日付は1977年9月15日だった。新聞の下には、ボロボロになった気泡ゴム製の梱包材と、丸めたビニール製のショッピングバッグがあった。チットウッドはボロボロになった梱包材を掻き出し始めた。3回掻き出した時、彼は何か生皮のように皺が寄って黒ずんだもの ― 手首と5本の指だった ― を見た。

検死官は正しかった。格子縞のフランネルのシャツの袖口から腕へと梱包材を掘り進んだ後、チットウッド刑事はトランクから後ずさった。ゴム手袋を脱ぐと、彼は部下の1人に、検屍官を呼ぶよう指示した。彼が手を洗いにキッチンに向かうと、そこには、冷ややかな態度を取り続けたままのアイラ・アインホーンが立っていた。

「死体を見つけたよ。ホリーの死体のようだ」と彼はアイラに言った。

「あんたが見つけた通りのものだ」とアインホーンは言った。

この時、チットウッド刑事は、壁の目につく場所に何本かカギがぶら下がっているのに気付いた。「これらは何のカギだろう?」彼はアイラに尋ねた。
アイラ「多分、それらはあんたがさっき壊したカギ穴に合うだろうね」
チットウッドはそれらを取り外して、カギ穴に挿してみた。ピッタリだった。

キッチンに戻ると、チットウッドはアイラに尋ねた。「教えてくれようとしたのかい?」

“No.”

チットウッドはアイラに対して、権利の告知をした。黙秘権の所まで来た時、アイラは言った。「ああ、黙秘したい」

この頃には、検屍官、地方検事補、殺人課の応援刑事、そして、J.R.ピアースが到着していた。カメラのフラッシュが光り、トランクが置かれていた床を切断するための電動工具がうなり、もっと広い範囲を捜索し、より多くの証拠を収集することを許可する、より多くの令状が到着していた。その間ずっとアイラ・アインホーンは、後に「不気味な無力感」と語った状態だった。彼は何の抵抗もしなかった。

著名人としての名声に対する配慮から、収容施設に移すための公用車に乗せられるまで、手錠はかけられなかった。施設に着くと、彼はヘレン(ホリー)・マダックス、31歳の殺人容疑で取り調べを受けた。

検屍官は「頭蓋脳損傷が死因だ」と述べた。「少なくとも10から12カ所、おそらくそれ以上の数の骨折がある」 彼女の頭蓋骨は左眼窩の下で破壊されていた;頭蓋骨の左側には何ヶ所も連続した損傷があったし、右耳の前の部分も数カ所が損傷し、あるいは陥没していた;額の右前頭骨が粉砕されていた;右眼窩の周囲には他にも多くの損傷があった。ホリーの下あごはあまりにひどく損傷していて、部分的に口の中に陥入していた。検屍官によれば、「頭蓋骨に穿たれた穴はあまりに大きく、一体何回打撃が加えられたのか判定不能である」が、使用されたのはおそらく、ランプあるいは瓶のような鈍器らしいという。最低でも6回は殴られているが、その倍以上である可能性もある。

つまり、ホリー・マダックスが死んだ後もおそらくアイラは、まるで狂った体重120kgのゴリラが、胸を叩きながらライバルを踏み殺すような具合で、彼女を怒りにまかせて殴り続けたのである(ゴリラを侮辱する気はない。彼らはアイラ・アインホーンよりもずっと高等な生き物である。)

本件の経緯 ― ドサッという音と叫び声が聞こえたと報告されていること、アイラがトランクを処分しようとしたこと、彼のアパートの部屋から、何カ月も酷い異臭がしたこと、彼が友人や家族に対して行った主張や言明が矛盾していること、彼が死体の見つかったクローゼットを心配していること(ここで述べた以外の注目すべき多くの事がレヴィーの本では述べられている)、習慣通りにアパートの部屋を夏の間又貸しできなかったこと、カギの発見を邪魔しようと些細な嘘までついたこと、ついに、クローゼットの中から死体が見つかったこと − について読まれた読者は、アイラ・アインホーンがホリー・マダックスを殺して、死体をトランクに詰め込み、処分しようとはかない試みを1度行ったが失敗し、9月15日までにはクローゼットにそれを戻したのだと分かるだろう。

ニューロンを2本持っていて互いに接触させられることができれば誰でも、同じ結論に達することだろう。

だが、そうはならなかったのである。一団の人々 ― 著名人、財力があり趣味もいい人々、知識人 ― がアイラの支持に回り、ハエも殺せないアイラが、それも全身全霊で愛していたホリーに危害を加えるなどとは到底考えられないと宣言したのである。

クローゼットの中の死体がホリーのものかも知れないと分かってもアイラが動揺すらしなかったという奇妙な事実に対しては、誰も注意を払わなかったらしい。フィラデルフィア・インクワイアラー紙のハワード・シャピロが監獄で行ったインタビューで、アインホーンはこう公言している:


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僕は終生歯に衣を着せずに物を言ってきたが、暴力を振るった事は1度もなかった。このことを率直に述べたい。あそこに誰が居たのであれ、僕が殺したのではない。僕は殺人鬼じゃないんだ。あそこに死体があったとしても、死体が入っていたとは知らなかった。
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さらに彼は、「今でもホリーを愛している」と宣言した。

ここで読者にしばし立ち止まっていただき、こうした事全てについて考えていただきたい。あなたが愛している人が居ると想像して欲しい。あなたが「終生愛する」と誓った誰かだ。それにふさわしい「感情」を得やすいなら、自分の子どものことを思い浮かべてもいいだろう。さて、その相手が居なくなったと想像して欲しい。想像を続けて。あなたはその相手に何の危害も加えていないと想像する。それから、こうも想像するのである。すなわち、あなたは何らかの理由で、ある極悪グループに自分が「狙われている」と確信しているので、「お膳立てされた」数々の問題のターゲットとされてきたらしいことも分かっているのだと。叫び声がしたとか、肉が腐る、ひどい臭いがしたとか、トランクとクローゼットに関して奇妙な行動をとったというような、アイラの事件に見られる他の細々した事は忘れるのだ。あなたのシナリオでは、そんな事は何1つ起きていない。あなたは邪悪な組織のターゲットであり、愛する人が居なくなってしまったので、心配している。本当に心配だ。あなたはどうするだろうか?このような状況に置かれたら、どう行動するのが自然だろう?

もしあなたが、自分が何らかの秘密の暴力組織にターゲットにされているのではないかと思ったら、愛する人に危害が及んでいないか調べるため、どんな類の行動に出るだろうか?愛する人の家族が雇った捜査員への協力を拒んだりするだろうか?たとえ、その家族が気に入らないとしてもだ。このような状況においては、互いに好意を持って居ない人同士であっても、一般に、いずれもが愛する人の安全を確保するという共通の目標に向けて一致団結するものである。自分1人で、どんな捜査ができるというのだ?

きっとあなたはこうした事を考えつくに違いないのだが、アイラの場合はそうでなかった。実際、まさにこのような状況に置かれた人々が、自らの安全と名声を大変なリスクにさらしても、愛する人を探そうと英雄的な努力を行う姿を描いた映画や物語は数多い。愛ゆえにである。

どのような理由があるにせよ、ホリーに対する愛を声高に宣言しておきながら、アイラは何もしなかった。確かに彼は何らかの手を打ったと主張したが、誰もこの主張を裏付けることができなかった。ホリーの居場所を知ろうとして、アイラがコンタクトするものと期待されていた人々の誰一人として、「何か知らないか」、「聞かなかったか」と彼に尋ねられることはなかった。ホリーから電話があったという彼の話は、彼の凶悪犯罪を疑った人たちを混乱させるために使われただけのものだった。彼は彼女を愛していると言ったが、彼の行動はこの言葉にそぐわなかったのである。

だが、仮定的なシナリオに戻ろう:想像して欲しいのだが、愛する人が居なくなって、心配と捜索を2年間続けた挙句、あなたがベッドで眠っていると、警察が戸口に現れて、問題を解決する糸口があなたのクローゼットにあると言う(確かに想像にも限度があるが、試して欲しい)。本当に誰かを愛し、その人のことが本当に心配ならば、クローゼットの中に答えがあるなどと信じられない事を言われても、カギを隠して捜査を混乱させようとなどしないだろう。あなたはどうして答えがクローゼットの中にあると考える人が居るのか、知ろうとするだろう。事もあろうに、あなたは何年もクローゼットの中など見ていないかも知れない。アイラが主張したのと同様、あなたも、「急進的な活動」を行ってきたせいで、影の組織によって、何か仕組まれたのでないかと疑うかも知れない。でも、だからと言って、愛する人を気づかう感情が削がれるものだろうか?そんな疑念が、愛する人の居場所が分かるかも知れないのなら、どんな手も尽くしたいという願望実現の妨げになるだろうか?もちろん、そんなことはないだろう。

Okay, さて次は、これを想像して欲しい。トランクを開けてみると ― 何とも驚いたことに ― 死体が見つかったのだ。死体が見つかったと言ったのは、全く信頼できる人物である。その人物が、見付かった死体は、あなたの愛する人のようだと言うのだ。見付かったのは、あなたが全身全霊で愛する人であることに留意して欲しい。ほぼ2年間、死に物狂いで見つけ出そうとした相手なのだ。あなたは誰かがあなたに危害を加えようと狙われているかも知れないと疑っていて、愛する人に危害が加えられたのはあなたを参らせるためかも知れないということに留意して欲しい。愛する人が死んだなどとは思いたくもないのだが、思い知らされる結果となったのだ!刑事が、「死体が見つかった。あなたの愛する人だろう」と言っても、あなたはじっと立ったままで、「あんたが見つけた通りのものだ」などと答えるだろうか?!

さらに、たとえ気が狂ったようにクローゼットに走って行って、自分の目で確かめることが許されず、その代り、殺人の疑いで逮捕されてしまっても、「ああ、黙秘したい」などと言うだろうか?

死体ではあれ、少なくとも愛する人が見付かったというのに、すぐにジャーナリストにインタビューを受けることを承諾して、誰が自分の愛する人を殺したのか、自分では分かっているものの、誰に「はめられた」のか言うつもりはない、とジャーナリストに対して述べ、それに続けて、「あそこに誰が居たのであれ、僕が殺したのではない。あそこに死体があったとしても、死体が入っていたとは知らなかった」などと言うだろうか?!

あのーー、いいだろうか?

私たちが目の当たりにしているのは、サイコパス人格の典型的な症状である。彼はホリーを「愛している」と主張するものの、本件に関する、あらゆる文献を読み直してみても、彼は「ホリーを愛している」と繰り返すばかりで、悲しいとか苦しいという言葉は一切ないのだ。彼は「愛」という言葉は知っているのだが、それがどういう意味かは明らかに分かっていないのだ。きっと、普通のやり方で愛情を「演じる」方法は知っているのだろうが、彼が置かれたような状況になった人は観察したことがなかったのだろう。だから彼には、適切な反応となるように真似るための「手本」がなかったのだ。これはサイコパスの弱点である。連中の「感情」はいずれも「演技」であり、連中は、他人から学んだ事に基づいてしか行動できないのだ。たとえ暫くの間、適切な素振りを見せても、連中の何らかの心の働きのために、それを持続することができないのである。連中は自分のことに集中するあまり、他人の事に気を回すのに耐えられず、正体を暴露してしまうのだ。

確かにアイラの冷淡さに気付いていた人々も居た。だがアイラはそれを、彼が十分に「自制心」を働かせているからだと説明した ― 彼はあまりに数多く困難な状況に直面してきたので、落ち着くよう「自己催眠暗示」を自分にかけたのであると。だがそれは、他の人々から彼の行動が何とも奇妙だと指摘された後になってからようやく言った言葉だった。

彼を疑った人たちは、アイラの公的人格を基に、公然と疑いを引っ込めた。彼を疑ったという事自体が、この人々の方に道徳的な欠点があることを意味したのである!


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これは試練の時だ。僕はどんな状況からも学ぼうと努めている。今こそ、友人たちが僕を信じてくれるか、見てみるとしよう。彼らは信じてくれると思う。多くの人が助けてくれだろうとも知っている。言われているようなことを信じるのを拒む人が多く居るのも知っている。この人々は僕を分かっているんだ。彼らは僕を支持してくれる。僕はそう確信している。
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こんな挑戦への決意を表明されたものだから、友人たちはもちろんのこと、アイラを信じたのだった。

興味深いことに、アインホーンが選んだ弁護士は、アーレン・スペクター
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC
だった。この人は、ジョン・F・ケネディー暗殺事件のウォーレン委員会で首席コンサルタントを務め、異論の多い「シングル・バレット/単独犯」説を採用していたのであるが、アインホーンはウォーレン委員会報告書を声高に批判していたし、シングル・バレット・セオリーなど全く意に介して居なかったからだ。アインホーンとスペクターの共通の友人が、弁護士としてスペクターを勧めたところ、アインホーンは良心の咎めも無く、「イエス!」と言ったのだ。JFKの暗殺者が単独犯であると世界を納得させたスペンサーなら、アイラが全く知らないうちにホリーが身の回りの品と一緒にアインホーンのクローゼットに納まったと世界を納得させられるかも知れなかった。

最初の目標は低い金額で保釈を得ることだった。保釈聴聞会とは、審理が終わるまで保釈しておいても、十分信用できる被告人かどうか判定するために開かれるものだ。証人が喚問され、被告人が法を守って、審理に現れるような良好な性格であるか証言するのである。

アイラ・アインホーンの最初の性格証人は、一流弁護士事務所に所属するステファン・J.ハーメリンだった。彼は高校時代からアイラを知っており、アイラは性格・評判とも「優秀」であると述べた。

地方検事補のジョセフ・マレーは、アインホーンが、裁判を受けるぐらいなら、国外に逃れたいと思っていることを暴きたかった。彼が最初に懸念したのは、アインホーンの収入だった。アイラが実に質素で、大した物も必要とせずに暮らしているのは明らかだったけれども、どうやって食べているのかについては、かねてより憶測の域を出なかった。しかしながらアイラは、時折、大旅行を行ったり、かなりの金額が必要と考えられるような活動に従事していたのだ。この金はどこから出ていたのだろうか?

「彼は何で生計を立てているのですか?」とマレーは訊いた。

アイラの高校時代からの長きに亘る友人は、正確なところは分からなかった。「彼は、フィラデルフィアにある様々な団体のためのコンサルタントとして活動していたと私は理解しています」

「どのようなものでしょうか?」

「私の記憶では、彼はベル電話会社のコンサルタントを行っていました。アインホーン氏は、同社重役が注目するような、他の方法では一般的に入手できないような広範囲に亘る情報を提供可能だったようです」

「どのようなものでしょうか?」

ベル社の人事担当副社長のエドワード・マーラーがこの関係を説明するために呼び出された:「私どもは、コミュニティーのニーズに敏感でありたいと思っております。このような経緯で、私は友人にアイラを紹介してもらい、私たちの関係は始まりました。私は、言ってみればアインホーン氏との窓口になったのです。率直に申しまして、月に2、3回は会っておりました。。。私たちが話していたのは、基本的にコミュニティに関してです。私たちの方から提案をし、彼がそれに答えるかたちで議論をしました。もちろんですが、そのうちに、電話会社とは何ら関係ないことも無数に話し合うようになりました」

「アインホーン氏は、ベル電話会社の他の重役とも接触したのですか?」

“Yes, 時々はそういうこともありました」

「例えばどなたと?」

「例えば、社長や前社長とです」

「コンサル料はどれぐらい払ったのですか?」

「現金では何も」

「なんですって?小切手ですか?」

“No, そのようなものは何も。おカネのやり取りはございません」

裁判官のウィリアム・M.マルタニは、この奇妙なやり取りにとても興味を持ったので、自ら証人に尋ねた。

「マーラーさん、あなたは月に2、3度、アインホーン氏と会っていたということでしたね?」

“Yes.”

「それはどうやって。。。あなた方は互いに偶々鉢合わせしていたのですか?」

“No, no, no. よろしいでしょうか、裁判官。アイラは、私どもが聞いたこともないようなコミュニティ内のあるグループの代表だったのです。私たちには、彼がそのような観方の代表だと思えたのです。それは、他の方法では私たちには気付くことすらできないようなものでした。。。少なくともそれが、定期的なコンタクトを続けていた理由です」

「これはベル電話会社によるPR事業だったのですか?」裁判官は尋ねた。

“Oh, okay, コミュニティ・リレーション(地域広報活動)です。裁判官」

「それなのに、ベル電話会社のような大きな資産を持つ会社が、彼に一銭も渡さなかったんですか?」裁判官は、この電話会社がアイラの話を真剣に聞いていたという証言を、明らかに疑っていた。

「いいえ、違います。私どもは、彼のために1つの事を行いました。それについては、実際に行っていたことの一部をご説明しながら、お話しすべきでしょう。アイラは、高名な教授や、弁護士、物理学者、未来学者等々のコミュニティを代表しているように思えたのです。私どもは、アイラや他のメンバーが見つけた記事をコピーして、グループのメンバーに郵送するのです。。。これが、私どもがアイラのために行ったサービスだったと言えましょう。彼はとても感謝していました。そしてまたこれは、より広いネットワークを築いてコミュニケーションを行いたいという私どもの意向に合致していたのです、裁判官」

「アイラのような人々にとって、そんな骨を折ることに、どんな得があるのでしょうか?」

これに対する明白な回答はなかった。マーラーは、アイラが金を欲しがらなかったことを知っていた。「ネットワーカー」でありたいという目的を彼は宣言していた。おカネが動機ではなかった。彼はもっと高次の壮大なシステムを運営しているのだと主張した;彼は地球のため、無報酬で働いていたのだ!それがアイラという人間だった。

マーラーは退出を許された。

次々に登場する性格証人たちは、数も多く、著名人ばかりだったが、検察官は、彼らがアイラ・アインホーンについていくら「性格良好」だと断言しても、対して重要ではないと指摘した。「これはとても重大な事件なのです。本件に表れている計画性、犯意、全ての特徴からして、これはとても重大な第1級殺人です」と彼は言った。「アインホーンの交際関係、性癖、金脈、旅行の多さは相俟って、アイラが保釈中に失踪し行方不明になることを示唆しています。保釈金は2千500万円(※当時の1ドル=250円)とし、うち10%の支払いを求めます」

アーレン・スペクターは、「これは高額過ぎます。検察はアイラがホリーを殺したという直接的な証拠を持っていないのですから」と抗弁した。

何だって?

裁判官はこのようなケースでは典型的な事を述べた:

「住居に置かれたトランクの中に死体があったというのは。。。珍しいことではないのでしょうか?驚くべきことなのでは?いいですか、私は彼が有罪だと決めてかかっている訳ではない。。。実際、率直に言ってね。検察官は、彼が無実の罪を着せられたと述べたという。私に言わせれば、その可能性はあるかも知れない。つまり、彼はアパートに毎日24時間居た訳でもなく、誰かが。。。分からないですよ。人生には奇妙な事が起こるものだ。私なら誰かに妻の死体を家のトランクから見つけて欲しくない。独り暮らしならなおさらだ。苦境に陥ることになりますからね」

そこがポイントだった。何か他の状況に居る、他の誰かが、自分のクローゼットから死体が見つかるようなことになったら、苦境に陥ることだろうし、今述べているのはそのような状況なのである。そんな人は有罪だと、誰もが考えるのは確かだろう。だが実際、その場に居たのは、裁判官、医師、弁護士、政治家、大富豪、それに上流社会のご婦人方であり、彼らはアイラ・アインホーンが性格良好であると立証しようとしていたのだ。アイラは、無罪と推定されていないながらも、友人からも、仲間や公衆からも、状況的に有罪だと思われていなかった。

そう、どうしてアイラがそんな事を?

マルタニ裁判官が、最終的にアイラの保釈金を1千万円と決めた後、どうしてシーグラム家の跡取りであるチャールズ・ブロンフマンの妻バーバラ・ブロンフマンが、アイラの保釈金の残額として必要な、彼女にとっては微々たる額である10万円(4000ドル)の支払いを申し出たのだろうか?(アイラの両親が残額の債務を負った。)

これは極めて重大な疑問である。アイラの性格証人たちはいずれも、頭蓋骨の中のニューロンの発火量がごく僅かになっていたのだと思われるかも知れない。この人々はおそらく、捜査で明らかになった事件の詳細の全ては知らなかったのだろう。何と言っても、本件の審理はまだ始まっていなかったのだ。彼らが知っていたのは、ホリーの死体がアイラのクローゼットにあったトランクの中から見つかり、アイラがネットワーク構築によって敵を作ったため無実の罪を着せられたと主張しているということだけだった。

この「説明」 ― ホリーはアイラに無実の罪を着せるため殺されたというもの ― によって、アイラにホリーから電話が掛かってきて、彼女は見つけて欲しくないと言っていたという彼の以前の主張が、完全に不要になるという点を指摘しておきたい。その一方で、これは次の疑問を提起することにもなる:彼がもし本当に、巷には彼をやっつけようとしている「エージェント」が居て、自分は無実だと考えていたのなら、どうして彼は、ホリーの居なくなったのがエージェントのせいだと疑わなかったのだろうか?そしてもし、彼がそう考えていたのなら、どうして彼は自ら進んで、彼女に何が起きたのか解明しようとしなかったのだろうか?何と言っても彼は彼女をとても愛していたのであり、彼女が居なくなる前々日の晩には、電話で繰り返し仲直りしてくれるよう説得を試みているのである。彼女が「あなたには二度と会いたくないわ」と言うと、彼は「お前の持ち物を全部通りに投げ捨てるぞ」と脅したのだ。その後ホリーがアイラに会いに来たのは、荷物をまとめて引き上げるだけのためだった。

もう1つ疑問となるのは:もし何らかの闇の陰謀組織のエージェントが存在し、このエージェントがアイラを狙って居て、彼らはアイラに罪を着せるために、ホリーを殺して、隣人たちにも気づかれずにアイラのアパートにホリーの死体を置いておくということすら、た易くできたのなら。。。どうして彼らはアイラを消さなかったのだろうか?結局、彼にしてみれば、自分が殺されて殉教者になるのも、無実の罪を着せられ投獄されて殉教者になるのも、五十歩百歩だったのである。このようなエージェントたちはきっと ― 彼らが存在したらであるが ― アイラに無実の罪を着せたりしたら ― 彼が無実であればだが ―、彼が黙ってはいないと思っただろうし、もし、彼が本当に無実の罪を着せられたのならきっとこのようなエージェントたちは、アイラがエージェントたちにとって広めて欲しくないことをあれこれしゃべるだろうから、彼に無実の罪を着せるのはあまりに高くつくと思ったことだろう。というのも、このようなエージェントが本当に存在していればきっと、アイラに無実の罪を着せる結果、彼が持って居ると思われるどんな情報も、その後開かれる裁判で公文書に記録されることになると、分かっていた筈なのだ。

「黙らせるためにアイラは無実の罪を着せられた」というストーリーは、どのみちうまく行かないのである。他のケースを見てきた私たちは既に知っている通り、誰かを黙らせるのが望ましいときには、それは迅速、且つ、抜かりなく、且つ、完全に実行されるのであり、「CIAに火を点けられて、私の家は焼け落ちてしまった」とか、「私はCIAに16回命を狙われた」とか、「CIAが誰かを殺して、無実の罪を着せるために私のクローゼットに死体を置いたので、私は彼らのやっていることを話すつもりはない」などというのは、全くの戯言なのだ。

だが、この作り話を多くの人々が信じたのであり、アイラがプレスに対して、「今こそ誰が本当の友人か分かるだろう」と公言した時、皆の倫理観は危機にさらされたのである。彼らは姿を現わして一列に並び、アインホーン・ダンスを踊って、一言の疑問も発せずに、アイラが必要としたカネを手渡したのである。

それにしても、どうして?どうして見るからに知的ではっきりモノを言いそうな人たちが、アイラ・アインホーンがホリー・マダックスを殺せるなどとは考えられないと思ったのだろうか?

一部の人が言っていたように、もしや、彼の擁護者たちもまた、陰謀の手先だったということだろうか?彼らは皆、アイラがホリーを殺したと知っていて、彼を牢屋から出し、出国させるよう指示されていたのか?

惜しい。だが、それではアイラはありきたりな、お馴染みの嘘つきの殺人者ということになってしまうし、彼に罪を着せてまでも闇に葬りたい事があるからこそ自分は「濡れ衣」を着せられたのだという、アイラのストーリーを否定することになるのだ。またしても、単純なロジックでは、アイラが広めた混乱を一刀両断できぬまま素通りしてしまうのである。

いや、残念ながら私は、心理的レベルでの正解は、それよりずっと単調なことだろうと思う:アイラ・アインホーンは端的に言ってサイコパスのペテン師であり、彼の支援者の列に加わって、彼と運命を共にしようとした人々は皆、たとえ知的で、はっきりモノを言うタチであろうと、単に騙されていたのである。かれらはカモだったのだ。サイコパスの犠牲者だったのである。

ロバート・ヘア博士が述べていたサイコパスで、公の注目を集めていた矢先に詐欺師だとバレた人物のことを覚えておられるだろうか?このケースでは驚くべきことに ― それは、アインホーンのケースとピッタリ一致するのだが ―、この詐欺師に騙されていた当の人々が、急いで彼の擁護に回ったのであり、そのうちの1人などは、「私は彼の誠実さ、高潔さ、職務への献身は、エイブラハム・リンカーン大統領に並ぶものだと思っている」と述べたのである。

多くの人々はどうやら十分に分かっていないようだが、サイコパスはとてもやり手の詐欺師で、生涯ペテンを働くことで食べて行け、決して捕まらないのである。サイコパスが隠した「秘密」に関する証拠書類や影響が、死ぬまで明らかにならなかったようなケースを、私は何件も思い出す。当然ながら、友人も家族も大変なショックを受け、芳しからぬ影響が残った。だが殆どの場合において ― サイコパスに痛い目に遭わされ、「カーテンの陰の男」を見たことのある人は別として −、サイコパスは殆ど全ての関係者を騙しているのであり、それが成功しているのである。

もう1つ重要なのは、サイコパスが長年かけて「どんでん返し」を起こそうとしているかも知れないということだ。連中の中には、殆ど異常なまでの狡猾さを発揮して、目標達成に執念を燃やす者も居る。連中は確かに懸命さを誇示することがあるのだ。連中は特定の義務を果たし、「約束を守る」ことに細心の注意を払い、実直さを示して、慈悲深く、親切で、寛大であるという「イメージ」を築くようなことなら何でもすることがある。だが、そこには常に見返りがある。賢いサイコパスは「見返り」を受け取るのを遅らす術を学んでいるのだ。連中の中には、「明らかな」見返りを求めようとせず、もう1発「ヒット」を放つためにコネを利用しようとする者が居る。この連中は、「ターゲット」との関係を築くことで、別のターゲットに取り掛かろうとするのである。サイコパスが人びとを指揮して連中のために何かをさせ、金や名声や権力を得たり、誰かに正体を暴かれそうになると、彼らのために立ち上がってまでして立身出世を果たすとき、この行動は実に巧妙に行われるのでいわばプログラムの中の「異常」を感知できるのは、最も鋭い観察者だけであるという点を強調しなくてはならない。連中は通常公衆の目から隠れた「秘密の生活」を送っているものだ。そして多分それは、「普段の生活」を共にしている人たちからすら隠されている。連中が正体を現すようなケースもあるが、それは連中がとても若くて、「異なった」生き方を「学ぶ」前である場合に限られる。

ヘアが引き合いに出したケースの男は、「私を信頼してついてきた人々の応援が得られるだろう。うまい嘘がつけないようでは、人を裁くことなどできないのだから」と語ったという。

アイラ・アインホーンはこう言っていた:「これは試練の時だ。僕はどんな状況からも学ぼうと努めている。今こそ、友人たちが僕を信じてくれるか、見てみるとしよう。彼らは信じてくれると思う。多くの人が助けてくれだろうとも知っている。言われているようなことを信じるのを拒む人が多く居るのも知っている。この人々は僕を分かっているんだ。彼らは僕を支持してくれる。僕はそう確信している」

どちらのケースでも、そして、他の数えきれないくらいのケースにおいても、全く同じ条件が揃っている。1人のサイコパスが嘘をつき、人々が彼を信じる ― それが殆ど想像できないようなスケールで起こるのだ。連中にこれが可能である理由は非常に重要だ:連中にこれが可能なのは、殆どの人々が騙されやすく、人間が生来善良なものと信じ切っているからなのだ。

だが、事態はさらに深刻になる。人びとはサイコパスを信じ、その言葉を真に受けるだけでなく、誰かが「プログラムの異常」を指摘しても、信奉者たちはそれを認めようとはせず、自分で調べることを拒むのだ!証拠が手渡され、読んで考えさえすればいい場合でも、彼らはそうしようとしない!ケースによっては、彼らは証拠を読んでも、サイコパスがそんな証拠は嘘だと言うと、サイコパスがついた嘘の方を信じるのである。

この興味深い現象の具体例 ― 実生活における例 ― を挙げるために、私自身の経験の中で観察した興味深い状況について述べさせていただく。ヴィンセント・ブリッジスと彼の信奉者連中は、例えば、フランク・スコットを個人的に知っていた6人 ― そのうち何人かは、10年も前から知っていた ― の全員がフランクのことを同じように考えているなどとは夢にも思っていなかった。ブリッジス一味の1人としてフランクに会ったことはなく、自分で意見を持てるほどの長い経験も持って居なかったのだ。にもかかわらず、彼らはブリッジスの意見を信じていた。ブリッジスは、この6人全員が嘘をついていると主張した。というのも、彼だけがおそらく状況の真相を知ることができたからである!なぜだろうか?それは、ブリッジスがあまりに繰り返し、自分が「専門家」だと宣言するので、彼らは本当にそうだと信じてしまったからに違いない!ブリッジスの「専門資格証明」が1つ残らず偽物だと証明されていても、何の影響もなかったのである。さらにショッキングなのは、サイコパスの擁護者たちが見せた信奉の程度であり、彼らは擁護のためなら違法行為や不道徳な行いも辞さないのである。実際これはサイコパスを見分ける手掛かりなのかも知れない:サイコパスを擁護するために、信奉者たちが自分の幸せや、公言する倫理行動基準に反するような行動を行い、損害を被りさえする、その程度度合いがである。これはサイコパス的リアリティが、ある種の病気のように「感染する」という手掛かりかも知れない。

このような行動の具体例として、ブリッジスの資格証明を執拗にチェックしていた、まさにその人 ― ヴィンセント・ブリッジスの経歴には、重要な問題があると、最初に注意を喚起した ― ネリー・オレソン博士(仮名)が、今では彼の忠実なサポーターの1人となって居る!ことが挙げられる。

私たちがブリッジスの経歴に関して追究したいという意志を表明しなくなっても ― 私たちとしては「関わり合いにならない」自由が欲しいというそれだけだった ―、オレソン博士はブリッジスの資格証明について1つ、また1つと繰り返し問題を提起していたのであり、今にしてみれば、「論議をまき起そう」と試みていたのは明らかである。そればかりか、彼女は私たちのeグループのメンバーたちに対して、ブリッジスは何の「専門家」なのだろうか、と疑問を投げかけるような個人メールを出していたので、これは私たちにプレッシャーを与えていたようなのだが。。。これは何に対してだったのだろうか?彼を調査するようにだったのか?それとも単に、彼女が徐々に敵対的になって行ったということなのか?判別は難しい。兎も角、目茶苦茶なことに、私たちが、ブリッジスは何やら重大な「資格の水増し」を行っているという見解に達して、ブリッジス個人の資格の有効性に関してオレソン博士が発見した事について、議論し始めた途端;私たち全員が、ブリッジスは嘘つきのペテン師だという風に考えるようになったと、彼女が確信した途端、彼女はブリッジス・サイドに転じて、彼と同じ事を言い始めたのである!

一体彼は、彼女に対して、どんな力(パワー)を働かせたのだろうか?というのも、ネリー・オレソン博士が行った行為は、私たちグループの権利を侵害しただけでなく、倫理的に自滅的で、法的に訴えることも可能だったのだ!

オレソン博士は、ペルセウス・ファウンデーションのメンバーとして、私たちの調査における議論の際に、あるいは電話やメールの中で「プライベート」だと指定して開示した事実は口外しない、という秘密保持契約にサインしていた。これはファウンデーションが、ネット上に巣食う詐欺師の疑いがある人々の経歴を調査する上で明らかに欠かせない契約だった。ジャーナリストは秘密が守れなくては仕事ができない。彼らが身元を含む情報を非公開に保つグループと付き合う以上、情報源の秘密は保証されねばならない。これは、情報提供者が情報のリリースを怖れる理由がある場合でも、情報が利用できるよう確保するという必要性に基づいた、調査ジャーナリズムの法的権利である。

さて、ネリー・オレソン博士が、ウィスコンシン大学プラットビル校の英語の教授であって、ジャーナリストの仕事の仕方に精通していると間違いなく期待されていることに留意されたい。それなのに、オレソンは、秩序を乱すアグレッシブな振る舞いのせいで、私たちのeグループから追放された後、ヴィンセント・ブリッジスの好意を得ようとして、ブリッジスの件の初期調査の一環で、秘密情報提供者から預かっていた多数のプライベートなeメールをコピーして、ヴィンセントに転送したのである。情報提供者が彼女にメールを読む許可を与えたのは、彼女が秘密保持契約を結んでいるファウンデーションの一員だったからである。彼女に転送されていたメールには「プライベート」とマークされていた。

しかし、ネリー・オレソン博士は、第3者である秘密情報提供者に負う守秘義務に違反しただけでなく、ペルセウス・ファウンデーションとの秘密保持契約にも違反したのである。彼女は、私たちのeグループとリサーチ・チームの面々の信頼も裏切ったのだ。

このような事に通じていると主張するだけでなく、それを教え ― 模範を示す ― べき立場にある、米国の高等教育機関の教師なのだから、彼女の振る舞いは無責任であるだけでなく、極めて非倫理的で違法だと言わねばならない。もちろんのこと私としても、こんな人に我が子を教えて欲しくはない(彼女の「物語」には別の側面もあり、それを考えればなおさらだった)。さらに、彼女は自らが活動のあり方を提案するジャーナリズムの世界でこのような事を行ったのであるから、彼女は真面目なジャーナリストやライターからは到底受け入れられなくなった。つまり、彼女は、信頼が最も重視される分野で、信頼できない人物であると分かったのである。ジャーナリズムの信頼がなくては、真実など知ることはできない。

彼女がこれを行ったのは、ヴィンセント・ブリッジスを「擁護」するためだった。ここに見ることができるのは、サイコパスの影響を被った人々がどんな違法な事を行うものかという生々しい実例である。少なくとも、失うものを多く持っていたこの女性が、かくも非倫理的で、無責任、道徳的に非難されるような一連の行動を行ったのであるから、サイコパスが信奉者を混乱させ、影響を与えるパワー(力)を持っているのは明らかだろう。

ここで想起されるのが、サイコパスの別の1面である:連中は、他人に対して妄想を押し付け、付き合いを強要する必要があるという思いに取り憑かれるのである。ブリッジス氏は、私たちが彼と付き合うのを拒んだことを、文字通り夢中になって攻撃している。彼は昼も夜も、私たちや、私たちのウェブサイト、私たちの言動の一々について、些細な点をあげつらうのだ。私はこれまで、ここまで酷いのは見たことがなかった!まるで彼の生活には他に何もやることがないかのように、カシオペア実験について殆ど何も知らない彼の信奉者たちが互いに酷評し合うのを煽り立てるのに明け暮れているのである!ブリッジスとネリー・オレソンときたら、私の書いたものや、トム・フレンチの記事を使って、私自身や私の言動を分析し、私が「精神病」だとか「誇大妄想」、あるいは今はやりの何とかいうパーソナリティー障害だと診断する記事を際限なく書き続けるのである。ブリッジスはトムとは随分前からの友人であるとほのめかし、「2人とも」私がいかに「危険であるか」ということで「意見が一致している」と言う。だが、ブリッジスは、トムがフランクについて以下のように書いていること(および、そこに隠された真意)には、決して言及しない:「フランクはとてもエキサイトした。そして、彼はエキサイトすると、少々押し付けがましくなる。でも、ローラは気にしない。彼女はフランクが大好きなのだ;その上、2人の関係においては、押し付けがましい行いも大目に見るという不文律があった」

確かにそうだった。押しつけがましいのだ。ついでに言えば、押しつけがましさに対して、私はとても寛大だった。トム・フレンチはちゃんと気付いてそのことを書いていたが、トムは、私がフランクの数々の仕打ちに何としても耐えようとしていることにも気づいていた。私は本当にフランクが大好きだったのであり、彼がこれだけ長くグループに居られた唯一の理由はそれだったのである。この点については、現役の6人のメンバーも述べていて、その幾つかは公表されているが、
http://cassiopaea-cult.com/statement-by-terry-and-jan-rodemerk
法的ないしプライバシーの理由から公表を控えているものもある。

だが、ヴィンセント・ブリッジスはトムが述べた上のコメントを無視し、私がカルトを始めようとしている狂った誇大妄想狂だとトムに信じさせようと1度電話した時の会話を引き合いに出して、ずっとトムを「利用している」のである ― 私たちは単に、彼と関わり合いになりたくないだけなのだ。ブリッジスは「専門家」ぶって、私の人生に対する事細かな酷評をトムに吹き込んでおいて、彼から私に関する「新見解」を引き出そうとしたのだ。ヴィンセントは、トムが騙されやすい人間だとでも思ったのだろう。

ところが実際には、トムはもう7年も、毎年私の誕生日には電話をくれるのである。今年の誕生日のやり取りを聴かれたら、皆さんも実に面白い議論だと思われることだろう。

という訳で、一方には6人のリスペクトすべき人々が居て、一人も資格を「でっち上げ」などしない。彼らの資格情報は、彼らが置かれてきた状況を直接反映した本当のもので、裏付けとなる証拠もある。

これに対してもう一方に居るのが、折り紙つきの嘘つき/操縦者で、私たちのやる事なす事が何らかの邪悪で不埒な目的のためだと宣言しているのだ。ヴィンセントときたら、自分の見方以外には何の根拠もなしに、意見を述べているのである。ということで、ここに見て取れるのは、アイラ・アインホーンを取り巻く状況そっくりだという非常に奇妙な現象である。私たちの「罪」がホリーのそれ  ― アインホーンと付き合い続けるのを断った ― と同じであるだけでなく、周りの人々の多くも、証拠よりもアイラの方を信じたのだ。人びとは事実に目を向け、考えることを拒絶し、全く信じることができなかったのである。バーバラ・ブロンフマンの場合も、逃亡中のアイラを支援するために何百万円ものお金を与えていたのだが、数年後にようやく、突如としてアイラの正体が「見える」ようになると、自分がいかに利用され、操作され、騙されていたのか分かって、恐怖におののいたのである。どうやら、犠牲者の何人かは最終的に目覚める可能性があるのだが、多くの人はそうではないのであり、私はそれがどうしてなのか知りたいのである。

そこで私が繰り返し考えるのが、レオン・フェスティンガーが認知的不協和について述べた、以下の言葉である:


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たとえば、心からあることを信じている人を考えてみなさい。さらに、その人がその信念に打ち込み、それ故に取り返しのつかない行動をとったとしてみなさい。そして、最後になって、まぎれもない否定のしようもない証拠によって、その人の信念が誤りであったことがわかったとしよう。そのとき、いったい何が起きるだろう?その人は、信念がゆらぐどころか、以前よりもいっそう自分の信念を確信して、人前に立ち現われることが多いことであろう。実際、その人は、他の人々を確信させ自分と同じ考えに改宗させようとすることに、新たな情熱を示しさえするかもしれないのである。
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レオン・フェスティンガー他著『予言がはずれるとき この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』水野訳第1章冒頭部分。


しかし、私たちがここで検討しているのは、信仰だとか、サンタクロース、あるいは、歯の妖精(◆子どもが抜けた歯を枕の下に置いて寝ると、夜中に妖精がこっそりとその歯をもらいに来て、お礼としてお金を置いていくという言い伝えがある)
のようなもののことではないのだ ― それとも、そうなのだろうか?サイコパスのどこに惹かれるあまり、人々は法を犯し、嘘をつき、盗み、誹謗中傷に参加し、他の人々に対して残酷で傷つけるような事をするのだろう?心理的に弱いせいで、人々は真実よりも嘘を好むよう駆り立てられるのだろうか?それとも、サイコパスの持つ何らかのパワーのせいだろうか?私たちには知覚できないレベルで、何かが起こっているのだろうか?

以前の章で私たちは、どうしてこのような現象が起こるのかに関する心理学説をいくつか示した。それは概ね次のような考え方と整合していた。すなわち、人々は、騙されたという証拠を突きつけられても、サイコパスに同調し、これに従うのである。というのも、彼らの自我構造は、正しいという事に依存しており、自分が間違っているという判定を認めることは、注意深く築き上げた自己イメージを破壊することになるからだ。

私は必ずしもこれがベストな説明だとは思わない。私としてはむしろ、ヘアの次の考え方の方が正解に近いと思う。すなわち、大抵の人々はうぶで、人間は生来善良なものと信じ切っており、そのせいで被害に遭いやすいのである。というのも、そういう人々は嘘をつかないので、サイコパスがどれほどのレベルまで嘘をつき、それがばれないように事実をでっち上げるかなど想像もできないからだ。彼らには感情があるので、自分では決してそんな事はしないし、感情を持たない生き物が存在することなど想像もできない。彼らには、サイコパスが本当の人間でないとは理解できないのである。

だが、事態はさらに深刻にならざるを得ない。というのも、このような人々は、単にサイコパスを支持し続けるだけでなく、そのためなら極めて活動的にもなる。法を犯してまでそうするのだ。そこで思い出されるのが、サイコパスにいたぶられたことのある犠牲者の言葉だ:「サイコパスの本質的な特徴とは、連中の妄想を他人に強制したいという、拡大していく、脅迫観念的な欲望を持っていることだ。サイコパスは他人の人権、中でも、他人と関わり合いにならない権利と愛する権利を含む、結社の自由を完全に無視し侵害する」

常に、常に留意すべきなのは、サイコパス的文脈における妄想の「強制」には、私たちが考えるような力など無用だろうということだ。サイコパスが人に嘘を信じさせるのに必要なのは、持ち前の利口さと、人の弱みを「嗅ぎつける」生来の能力を活かすことだけだからだ。そうして連中は、その弱みにつけ込み、優れた馬乗りのように、犠牲者を徐々に手なずけるのである。ここが核心である:サイコパスはいかなる人間同士の交流も、「餌をまく」チャンス、競い合い、あるいは相手の意志を試す機会として見る傾向があり、そこにはひとりの勝者しかいない(ロバート・D・ヘア/著 小林 宏明/訳 『診断名サイコパス 身近にひそむ異常人格者たち』188ページ)。ここに手掛かりがあるのだ。

サイコパスの犠牲者が全員、ホリー・マダックスのような目に遭う訳ではない。「二次的」被害者の全てが、ホリーの遺族のような目に遭う訳でもない。だが、サイコパスが、そうとは気付いて居ない人々を操作し続ける限り、犠牲者は生まれるだろう;それがあなたでなくても、あなたが愛する誰かかも知れない。ホリー・マダックスの50歳の誕生日となっていた筈の日に、彼女の妹はこう書いている:


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ホリーが居なくなって、死体で発見されてからの20年は、長く苦痛に満ちたものでした。アイラがあっさりやってのけた利己的な行動のせいで、私の人生は何度も永久に変わってしまったけれど、(恨みという?=)感情のその場所に、私は頻繁に訪れないようにしたものです。私の兄弟や、その家族、そして私はホリーが居なくて淋しいです。ホリーについて話で聞くことは出来ても、ホリーの甥や姪は、この極めて素晴らしい、思いやりに満ちた人物と会って話すことは出来ないのです。愛された家族がどうしてどんな風にして亡くなったか、自分の子供に説明しなくてはならないような目には、他の人には遭って欲しくないと思います。本当です。それは簡単なことではないし、幼い子供たちにとって、それは思いもよらないくらい恐ろしく身近に感じられることなのです。しかも、人生のごく早いうちに。

今の私は、ホリーよりも年上になってしまい、人生について意見を述べ合い、共に成長できる年上の姉妹はいません。丁度彼女が殺された頃、私たちはそれを始めたばかりだったのですが。私の人生哲学は、神の恩寵や、生の美、そしてそれがもたらす平和を讃えるものですが、似たような状況を耳にするたびに、私は試されていると感じたものです ― OJシンプソン事件に興味本位で居られるなどとは、決して思わないでください!結論ですが、誰かが殺されて、その美しい人生は記憶となります。その特別な1人と接した、何百という人は生き続けていて、彼女を思い出すのは、今やその人次第なのです。ここでは何かがフェアじゃありません。
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ホリー・マダックスは、もうアイラ・アインホーンと関わるのはやめようと決めていた。彼女は「結構よ。もうあなたと付き合う気はないの」と言ったのだ。彼女が彼の妄想を拒絶すると、彼は彼女が誰と関わるか選ぶ権利を完全に無視して、蹂躙した。彼は激怒して、繰り返し彼女の頭を強打した ― 拒絶しようと思った思考の座を。

だが、このような行動も突然現れた訳ではない。これはアイラの罪には違いないが、突然一時的に狂気に陥ったのでなければ、その兆候がそれ以前からあったに違いない。どうして誰も気付かなかったのだろうか?兆候があったのなら、ホリーの死体がアイラのクローゼットで見付かった時、どうして誰も、その決定的瞬間のことを思い出さなかったのだろう?アイラが他の人々の心を支配したパワーとは何だったのか?それはどうやって生まれたのだろう?繰り返し浮かぶ疑問とは:どうして見るからに知的ではっきりモノを言いそうな人たちが、サイコパスの妄想に支配されてしまうのだろう?騙される人の方に何かあるのか?それとも、サイコパスには、他の人々が持って居ない何らかの力があるのか?

この問題について見て行くとしよう。なぜなのか知りたいものだ。というのも、アインホーン自身が1971年の市長選でのスピーチでこう言っているのだ。「僕のようなサイコパスは、社会が変わろうとしている時に現れるものだ」

(本章終わり)
posted by たカシー at 17:39| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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