2017年02月11日

ティエリー・メイサン「トランプは従来述べてきた通りの方向に進んでいる。反トランプの反応は戦争宣伝だ」

SOTT パペットマスター


ティエリー・メイサン「トランプは従来述べてきた通りの方向に進んでいる。反トランプの反応は戦争宣伝だ」
https://sott.net/en341874


ティエリー・メイサン(訳:ピート・キンバリー)
ヴォルテール・ネットワーク
2017年2月7日

c Martin Schoeller para Time
(写真キャプション)
タイム誌「今年の人」に写真が掲載された

トランプ大統領に関して我がヴォルテール・ネットワークが前回載せた記事に対して、一部の読者からは激しい反発の声が寄せられた。そのいくつかは、汎大西洋主義メディアが警告を発し、ネガティブな兆候が積み重なっているのもかかわらず、ティエリー・メイサンは事態を甘く見ているのではないか、というものだった。以下に彼の返答を掲げる。いつもながら理路整然としたものだ。


---
トランプの大統領就任から2週間になるが、汎大西洋主義メディアは彼に関するディスインフォメーションと扇動記事を載せ続けている。トランプと彼の新任閣僚たちは声明と意志表示を増やして行っているが、それらは相矛盾するように見え、ワシントンで何が起こりつつあるのか理解するのが難しくなっている。


反トランプ・キャンペーン

以下の4大テーマの扱いから、汎大西洋主義メディアが不誠実であることは証明可能である。

1. オバマケアの廃棄開始に関して(1月20日)
汎大西洋主義メディアでのアナウンスとは反対に、オバマケアによって利益を受ける筈の恵まれない階層の人々が、集団でこれを敬遠していたことを報じなくてはならない。この「社会保障」策は蓋を開けてみれば魅力的と言うにはあまりに負担が高過ぎ、制約が多過ぎるのだ。真の満足を得るのは、このシステムでもやって行ける企業だけである。

2. メキシコ国境の壁の延長に関して(1月23日-25日)
本件に関しては、何ら外国人嫌悪的な面はない ― 「安全柵法」に署名したのはジョージ・W・ブッシュ大統領であり、彼が構築を始めたのだ。この仕事は、当時のメキシコ政府の支持の下、バラク・オバマ大統領によって続けられた。「壁か架け橋か」という呼び方のおしゃれさよりも、
https://www.buzzfeed.com/bfjapannews/starbucks-says-human-rights-in-america-are-under-attack-1?utm_term=.jj1wnKwo#.puDdQkdK
国境強化システムが機能するためには、両国当局が運用面で合意していることが不可欠である。一方でも反対していれば、失敗に終わるものである。アメリカとしては、移民の入国をコントロールできる利益があるし、一方、メキシコとしては、武器の輸入を阻止できる利益がある。この点は何ら変わっていない。しかしながら、北米自由貿易協定(NAFTA)が適用されたため、多国籍企業は、(マルクス主義にいわゆる「利潤率の傾向的低下の法則(TRPF)」に従って)、地域性のない仕事だけでなく、地域性のある仕事も、地域性を取り除いてアメリカからメキシコへと移し、薄給の労働者によって行われるようにした(「不当なダンピング」)。このような仕事の出現は、農民の大規模な離村を惹き起こし、まるで19世紀にヨーロッパで起こったような破壊を、メキシコ社会にもたらした。その後、多国籍企業は賃金を引き下げ、メキシコ国民の一部を貧困に追いやった ― この人々はアメリカによって正当な賃金が支払われるのを夢見るばかりだ。というのも、ドナルド・トランプはNAFTAを破棄したい意向を表明しているので、近年のうちに物事が正常な状態に戻って、メキシコもアメリカも満足がいくようになるだろうからだ。[原注1]

3. 人工妊娠中絶に関して(1月23日)
トランプ大統領は、海外から資金援助を受けている、専門的なNGOへの連邦助成金の支出を禁じた。この措置によって彼は、これら特定のNGOに対して、困窮している女性を助けるという社会的目標を選ぶか、それとも、21日にワシントンで行われた「ウイメンズ・マーチ(女性大行進)」がそうだったように、ジョージ・ソロスに雇われてトランプに対する示威行動を起こすか、いずれかを選ばねばならないと警告したのである。ということであるから、本件は人工妊娠中絶とは関係がなく、「カラー革命」の防止策なのである。

4. 入国禁止令に関して(1月25日-27日)
ドナルド・トランプは、オバマ政権時代から受け継いだ法律を適用すると宣言した。すなわち、1100万人に上る不法滞在外国人を国外退去させるというものだ。彼は、この法律の適用を拒否すると公表した都市に対する助成金を停止した ― そんなことを宣言したら、どこから掃除婦を連れて来ればいいのか?という訳だ。手始めに彼は、不法入国者の中でも、アメリカやメキシコ、その他の国で刑事訴訟の被告となっている80万人の犯罪者を退去対象に指定した。これに加えて、テロリストがやって来るのを防ぐために、国籍や状況が確認できない国々からのアメリカへの入国許可を停止し、3か月間入国禁止としたのである。彼は自分でそのような国々をリストアップした訳でなく、オバマ大統領時代の法律を準用したのだ。例えば、ここシリアには、
http://www.voltairenet.org/article195196.html
もはやアメリカの大使館も領事館も存在しない。よって、行政警察の見地からすれば、シリア人をこのリストに載せるのは理に適っている。だが、これによって影響を受ける可能性があるのは、最小限の人々だけである。2015年にアメリカのグリーンカード(永住ビザ)を手に入れることができたシリア人は145人に留まる。特殊なケースが数多く発生しうることを意識して、大統領令では国務省と国土安全保障省に禁止を免除する自由を認めている。本法を容赦なく適用したトランプ大統領に反対する公務員が大統領令の適用を妨害したからといって、大統領が人種差別主義者やイスラム教嫌いだということにはなるまい。

このように、汎大西洋主義メディアが指揮する反ドナルド・トランプ・キャンペーンは、根拠のないものである。彼がイスラム教徒との戦争を始めたように見せかけたり、彼が窮しているとか暗殺される可能性を連想させる記事を公にすることは、もはや単なる不誠実では済まされない ― これは戦争宣伝だ。

https://www.youtube.com/watch?v=0fE1wxdgdpk


ドナルド・トランプの目標

ドナルド・トランプは、911の公式見解に世界で最初に異議を唱えた人物である。それは当日テレビで行われた。ツインタワーを建てた技術者が今は自分のところで働いていると述べた後、彼はニューヨークの9チャンネルで、ツインタワーの鉄骨構造を突き破るのは、ボーイング機には不可能だと断言した。続けて彼は、ボーイング機ではツインタワーの倒壊もあり得ないと語ったのである。結論として彼は、我々には未だ気付いていない他の要因があるに違いないと請け合った。

この日からドナルド・トランプは、この犯罪を犯した人々に対する抵抗を止めていない。就任演説の中で彼は、これは2つの政権の間での統治権の移行ではなく、16年に亘って統治権を奪われていたアメリカ国民への統治権の返還であると述べた。[原注2]

大統領選挙運動の間にも、政権移行期間中にも、さらには就任後も彼は、過去の年月における帝国主義体制は決してアメリカ国民の利益にはならなかったのであり、クリントン夫人が象徴する小グループに利益をもたらしただけだと繰り返し述べていた。彼は、アメリカはもはや、「一番」になろうとするのではなく、「最高」を目指すのだと宣言した。彼のスローガンは、「アメリカを再び偉大にする」であり、「アメリカファースト」なのだ。

この180度の政治的転換は、過去16年以上に亘って導入されてきた体制を揺るがすものである。この体制のルーツは、1947年の冷戦時代に遡る。当時はアメリカだけが望んだものだった。この体制は壊死したが、NATO(イェンス・ストルテンベルグとカーティス・スカパロッティ司令官)、EU(フェデリカ・モゲリーニ)、そして、国際連合(ジェフリー・フェルトマン)のような数多くの国際機関という残滓を残した。[原注3]

もしドナルド・トランプが目標を達成するとしても、それには数年掛かるだろう。


アメリカ帝国の平和的解体に向かって

2週間の間に沢山のことが始まったが、それらはしばしば偉大な決定によるものだった。トランプ大統領と彼の政権チームによる、響き渡る宣言は、恣に混乱を拡げる結果ともなったが、それによって彼は、一部に敵意ある議員が存在するにもかかわらず、彼の協力者たちの指名が承認されるのを確実にすることができた。

これは、ワシントンで始動したばかりの2つの体制の間の決死の戦いであることを我々は理解しなくてはならない。汎大西洋主義メディアがしばしば相矛盾するコメントや辻褄の合わない声明に対して、あれこれコメントし、独自の見方を行うのは放っておこう。

何はさておき、ドナルド・トランプは安全機構に対する彼のコントロールを確実なものとした。彼が最初に指名した3人の将軍たち(国家安全保障問題担当大統領補佐官マイケル・フリン、国防長官ジェームズ・マティス、国土安全保障長官ジョン・ケリー)は、2003年以来、「政府の継続性」と戦ってきた人たちである。[原注4] 次に彼は国家安全保障会議(NSC)を改革し、常任メンバーから統合参謀本部議長とCIA長官を外した。[原注5]

後者の命令はおそらく見直されるだろうが、未だそれは行われていない。
http://jp.reuters.com/article/usa-trump-cabinet-spies-idJPKBN15O047
ちなみに、ドナルド・トランプとフリン将軍が、国家情報長官のポストを廃止したい意向であると、私は以前述べた。[原注6] しかし、このポストは保たれ、ダン・コーツがそれに指名された。この結果、NSC改革の協議は、国家情報長官がNSCの中に居れば、CIA長官を外すことを十分正当化できるだろうと示す戦術だったことが明らかとなった。

「一番」という言葉を「最高」に置き換える結果、ロシアおよび中国と一時的に衝突するよりも、それらとパートナーシップを結ぶという方向に向かうことになる。

この政策を妨害するため、クリントン夫人とヌーランド夫人(=元国務次官補)の友人たちは、ドンバスへの攻撃を再開した。戦闘開始以来重大な損失を被った結果、ウクライナ軍は撤退し、前線にはネオナチの民兵を置くことにした。戦闘は人民の新たな共和国の住民から多くの犠牲者を出した。同時に中近東では、オバマ政権の計画通り、シリア戦線に戦車を投入しクルド人に砲撃を加えることができた。

ウクライナ紛争を解決するために、ドナルド・トランプはペトロ・ポロシェンコ大統領を追い出すのを手伝う方法を探しているところだ。それで彼は、ポロシェンコ大統領からの電話を受ける前に、野党の指導者であるユーリヤ・ティモシェンコとホワイトハウスで会ったのだ。

ドナルド・トランプの報道官は否定しているものの、シリアとイラクで彼は、ロシアと共通の作戦を既に開始している。軽率にもこれを明かにしてしまったロシアの国防相は、この件に関して発言するのを止めた。

北京に関して言えば、トランプ大統領は環太平洋連携協定(TPP) ― 中国を抑制するために構想された条約 ― から離脱した。政権移行期間中に彼は、アリババの創業者で、中国で2番目に裕福な男であるジャック・マーに会っている(「他の国々が米国の雇用を盗んでいるわけではない。米国の戦略のせいだ。(戦争にカネを使い過ぎ)適切な形で資金を配分しなかった米国が悪いのだ」
http://jp.wsj.com/articles/SB10852398588237353609804582582451394187724
と確言したビジネスマンである)。彼らが議論の中で、ワシントンがアジアインフラ投資銀行(AIIB)を支持する可能性に触れたことは、既にご紹介した通りである。もしそういうことになれば、アメリカは中国を邪魔するどころか、協力に合意するだろう。両国が2つのシルクロード建設に参加すれば、ドンバスやシリアでの戦争は無意味になるだろう。

金融に関して言えば、トランプ大統領は、ドッド・フランク法の廃止に着手した。メガバンクを残酷にも破綻させることを避ける(「大き過ぎてつぶせない」)ことで、2008年の金融危機を解決しようとした法律である。この法律にはポジティブな面も幾つかあるが(2300ページもある)、財務省が銀行を保護監督するという部分は、明らかに銀行が発展する妨げとなるものだ。ドナルド・トランプは商業銀行と投資銀行との区別(グラス・スティーガル法)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AB%E6%B3%95
を復活させる準備もしているようだ。

最後に、国際機関の浄化も始まっている。新任の国連大使であるニッキー・ヘイリーは、16の「平和維持」ミッションについて監査請求を行った。役に立たないと思われるものは終わらせたいと言明したのだ。国連憲章の考え方からすれば、このようなミッションの全ては例外なく監査を受けることになろう。実際、国連の創設者たちは、この種の軍隊派遣は予見していなかった(こんにちでは、男女合わせて10万人以上に上っている)。国連は国家間の紛争を防止し、あるいは解決するために作られたのだ(内戦は対象ではない)。両当事者が停戦協定を結んだ際、国連は協定が尊重されているか確認するために、監視員を派遣するのである。しかしそれとは反対に、これらの「平和維持」活動(PKO)は、国連安保理が解決策を押し付け、紛争の一方当事者が拒絶した場合に、この解決策の尊重を強制するのが狙いとなっている ― これでは実際のところ、植民地主義の継続である。

実際、このような軍隊が駐留しても紛争は長引く結果となる一方、居なくなったからといって何も変わらない。だから、イスラエル・レバノン国境に派遣されている国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の兵員はレバノンの領土だけに駐留しており、イスラエルの軍事行動も、レバノンの抵抗組織による軍事行動も阻止しないのは、既に我々が何度も見た通りである。イスラエルのためにレバノンに対してスパイ活動を行うことだけがUNIFILの役割であり、このため紛争は長引いている。同様に、ゴラン高原の兵力引き離し地帯に派遣された国際連合兵力引き離し監視軍(UNDOF)の兵員は、アルカイダによって追い払われてしまったが、それでもイスラエルとシリアとの紛争状態には何の変化も起きていない。このシステムを終わらせることは、国連憲章の精神と字義に立ち返って、植民地という特権を否定し、世界平和を目指すことである。

メディアによる論争や、街頭デモ、政治家同士の対決の陰で、トランプ大統領は従来述べてきた通りの方向に進んでいる。

原注:
1. "Behind the bipartisan wall", by Manlio Dinucci, Translation Anoosha Boralessa, Il Manifesto (Italy), Voltaire Network, 28 January 2017.
http://www.voltairenet.org/article195093.html
2. "Donald Trump Inauguration Speech", by Donald Trump, Voltaire Network, 21 January 2017.
http://www.voltairenet.org/article194999.html
3. "Germany and the UNO against Syria", by Thierry Meyssan, Translation Pete Kimberley, Al-Watan (Syria), Voltaire Network, 28 January 2016.
http://www.voltairenet.org/article190102.html
4. "Trump - enough of 9/11!", by Thierry Meyssan, Translation Pete Kimberley, Voltaire Network, 24 January 2017.
http://www.voltairenet.org/article195017.html
5. "Donald Trump winds up "the" organization of US imperialism].]", by Thierry Meyssan, Translation Anoosha Boralessa, Voltaire Network, 31 January 2017.
http://www.voltairenet.org/article195148.html
6. "General Flynn's Proposals to Reform Intelligence", by Thierry Meyssan, Translation Anoosha Boralessa, Contralínea (Mexico), Voltaire Network, 1 December 2016.
http://www.voltairenet.org/article194312.html
posted by たカシー at 10:28| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月16日

ヒーローらしからぬヒーローの大統領:トランプは政治的公正さ(PC)に厳しいポストモダニズムの矛先をどうやって相手自身に向けたか

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ヒーローらしからぬヒーローの大統領:トランプは政治的公正さ(PC)に厳しいポストモダニズムの矛先をどうやって相手自身に向けたか
https://sott.net/en340796


デビッド・アーンスト
ザ・フェデラリスト
2017年1月23日


もし政治というものが、上部にある文化から流れ出るものだとしたら、政治家がその役割を習得するのは単に時間の問題である。あなたがドナルド・トランプを好きだろうと、嫌いだろうと、彼は暗号を解読した。

『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』主人公のトニー・ソプラノ、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%8E%E3%82%BA_%E5%93%80%E6%84%81%E3%81%AE%E3%83%9E%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2
『ブレイキング・バッド』主人公のウォルター・ホワイト、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%89
『ハウス・オブ・カード 野望の階段』主人公のフランク・アンダーウッドは、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89_%E9%87%8E%E6%9C%9B%E3%81%AE%E9%9A%8E%E6%AE%B5
それぞれのやり方で複雑な悪党になりきった、最近の非常に有名なキャラクターの例だが、いずれも何百万というアメリカ人を魅了している。

ヒーローらしからぬヒーローは、昔から西部劇やギャング映画、犯罪ドラマに欠かせぬ存在である。『スカーフェイス』でアル・パチーノが演じた、マイアミの麻薬王として君臨するトニー・モンタナが適例だ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%B9_(%E6%98%A0%E7%94%BB)
この映画の主人公トニーは、やがて落ち目になり、マイアミの会員制カントリークラブで妻とひどい喧嘩をする。彼女はゴルフに来ていた、正装をした大勢のワスプ(アングロサクソン系白人新教徒)が口もきけない程驚いている前で、夫が殺人者で、ヤクの売人であり、まともな父親など務まらないと大声で咎めて、彼を公然とさらし者にしたのだ。

もしトニーが古典的なヒーローだったら、これは道徳的審判の始まりであり、彼は後悔に明け暮れたことだろう。だがこれは『スカーフェイス』であり、トニーはヒーローなどではないから、上流社会の犯罪者だと公然と暴露されたのに応えて、聴衆の方に鏡を向けて、彼らを叱りつけるのである:
https://www.youtube.com/watch?v=dW37AGZ0Pj0


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あんたら、何を見てるんだ?あんたらなんか、忌々しい間抜けどもだ。なぜか分かるか?あんたらには、なりたい者になる勇気がないからだ。あんたらには、俺のような人間が必要なんだ。俺のような人間が必要だからこそ、あんたらは忌々しい指で俺を指して、「あれは悪党だ」と言うんだ。あんたらはどうなんだ?善人だって?善人じゃないさ。隠れて嘘をつく方法を知ってるだけさ。俺には、そんな問題はない。俺はいつだって本当のことを言ってるんだ。嘘をつくときだってな。それじゃあ、悪党におやすみを言いな!さあ。言っておくが、あんたらはこんな悪党に出会うことはもうないだろうよ。
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犯罪者が切望するのを犯罪者ではない裕福な人々が黙って聞いているというのは、目新しいテーマではない。とは言うものの、オリバー・ストーンが脚本を書いていることを考えると、トニーの大言壮語は、競争が激しく、資本主義的な、レーガン時代の、いわゆる「上品な」アメリカ人たちの偽善を評したものだろう。彼らは実質的にトニーと変わらないのだ。これらの裕福なマイアミ人タイプは、トニーのような人間と関わりになっているのを見られたくないのだが、そのくせ彼らは、自分達がコカイン・ビジネスで裕福になったのであり、自分達の多くが彼のコカインをおそらく濫用していることを十分知っているのだ。

それではトニーの目から見た場合、まともであるとはどういう意味だろうか?「まともさ」のモデルと思われる人々にはまるでそれが備わってないのだから。この人々にとって、道徳的な悔恨の表れとは、道徳的な悔恨ゆえの、ゆがんだ見せ掛けだけのごまかしなのだろうか?そうなることはトニーにとってさえ堕落ではないのだろうか?

トニーはヒーローでも悪党でもない:彼はヒーローらしからぬヒーローなのだ。あなたはおそらく、彼を応援しているなどとは認めないだろうが、取り澄ました偽善者(と思われる人)たちに対して、彼がひどい仕打ちをするのを、あなたが楽しんで観たのだとすると、あなたは応援していたのだろう。確かに彼は、彼の妻が言う通りの人間だが、正直にそうだと認める根性が、彼にはあるのだ。


ドナルド・トランプ。政界のヒーローらしからぬヒーロー

1月20日の就任演説でトランプは、このシーンを再現した。「既存の勢力」の「勝利は皆さんの勝利ではありませんでした」と述べて、支配階級に宣戦布告したのだ。
http://thefederalist.com/2017/01/20/heres-the-full-transcript-of-donald-trumps-inauguration-speech/
http://thefederalist.com/2017/01/20/trumps-inauguration-speech-declaration-war-ruling-class/
「彼らが首都で祝っている一方で、闘っている国中の家族たちを祝うことはほとんどありませんでした」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170121/k10010847631000.html

彼は、大統領選の数日前に開かれた「アル・スミス記念財団晩餐会」で、これとそっくりなビックリ仰天のパフォーマンスを演じていた。
https://www.youtube.com/watch?v=NnRVAzFa6Og
ヒラリー・クリントンをだしにしたジョークにブーイングが起こると、彼は会場の人々に対してあからさまに中指を突き立てた。冒頭の挨拶での彼の言葉をよく見てもらいたい:


---
そして、この場にいる皆さんにご挨拶申し上げます。とても長い間、私と知り合いで、私のことを愛してくれています。本当です。政治家の皆さん、自宅に招待してくれましたね。子供たちに私を紹介してくれました。たいていは友達になれました。子供たちは私のサポートを求めていたのです。そしていつもお金を欲しがりました。親しげに私を呼びました。「やぁ、元気?」ってな具合でね。ですが、私が共和党から大統領選に出馬すると、突然「ダメ人間」「腐ってる」「嫌気がする」「ろくでなし」となったのです。彼らは私のことなどまったく覚えていません。
---
邦訳出所:http://www.huffingtonpost.jp/2016/10/23/trump-speech_n_12614300.html


言い換えればこうだ:「たとえ私が、ダメ人間で、腐ってる、嫌気がする、ろくでなしだったとして、それがあなたたちにどう関係するというんだ?少なくとも私は上品なフリはしない;ところが、あなたたちときたら、厚かましくも、私よりずっとまともだというフリをしている。初めから私が、あなたたちにとって標準的な上品さレベルで振る舞おうと悩んでいたら、あなたたちは私に軽蔑的な扱いをしなかったなどという、架空の話は抜きにしよう。そんなことは上品さ自体とは何の関係もなく、全ては権力次第だと認めようじゃないか。あなたたちは自分たちが道徳的に優れているとずうずうしくも思っているが、それは自分勝手な、真っ赤な嘘だ。あなたたちがほらばかり吹いていると指摘し続ければ、私は大統領になれるだろう」

多くの人々が、トランプ大統領は、彼が連発した「政治的公正さ(PC)」
http://izumiyayoshihiko.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/political-corre.html
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/01/pc.php
というまくら言葉の産物だと論じている。これは部分的には正しい。だがむしろ、PCと、トランプのそれに対する反応の両方共が、我々の文化において長きに亘って称揚されてきたポストモダニズムの産物である、というべきだろう:ポストモダニズムは、全ての真実は相対的であり、道徳性とは主観的なものであるという、ニヒリスティックな仮定を持つ。それゆえ、我々の人生に意味を与える、個々人のお気に入りの「物語」はいずれも等しく正しいのであり、検証に値することになる。トニーは聴衆に向かって「俺はいつだって本当のことを言ってるんだ。嘘をつくときだってな」と演説していた。彼というキャラクターは時代を先取りしていたのだ。


ポストモダニズム:善行を試みるのは時間の無駄だ

ポストモダニズムは、我々の文化が真正さに重点を置き、いんちきを軽蔑することの思想的源泉である。結局、この世で唯一正しいと言えるのが、「全ての真理と道徳性とは相対的なものである」ということならば、そうでないと主張する者は、バカか詐欺師なのだ。だから当代においては、ヒーローらしからぬヒーローが人気で、正統派のヒーローは姿を消した。

ヒーローは、伝統的に良いことの象徴であるが、「良い」とされるものが長きに亘って貶められてきた世界においては、ヒーローは『ダドリーの大冒険』
https://www.youtube.com/watch?v=sgUDShPYos8
のダサい主人公のように、あまりにも愚かな人物として描かれる。これとは対照的に、ヒーローらしからぬヒーローは、どんなワルだろうと、持ち前の肝の座ったリアリズムと率直さで、聴衆に好印象を与える。フランク・アンダーウッドは観客との間の第4の壁を突破し、悪だくみを語り掛ける;ウォルター・ホワイトにとっての贖罪の瞬間は、ついに覚せい剤の密売について、妻に打ち明けた時だった。というのも、彼はそうしたかったし、家族には模範人的な態度を取りたくなかったからだ。トニー・ソプラノは、彼が本当は「ゴミ処理コンサルタント」ではないといち早く娘に認めた時、彼女との絆を深めた。ポストモダンの世界では、真正さに勝る美徳はないし、いんちき以上の悪徳はない。

ポストモダニズムはまた、深夜ドラマのコメディアンたちの口達者な冗談の裏に潜む前提の源でもある。彼らは愛国主義や宗教に対して軽蔑的で偏見に満ちた態度を示すものの、いかなる偏見でも感知すれば厳しい意見を言う。これは、『となりのサインフェルド』や、
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=2590126&id=81725085
『フィラデルフィアは今日も晴れ』、そして、『アーチャー』のようなおかしなテレビ番組に出てくる、目的を持たない、自己中心的な登場人物たちの殆どの会話のベースラインである。それは偏見に対抗する超偏見であり、コメディアンのエバン・セイットに言わせれば「無差別というカルト」なのだ。

人間の状態を良くするための努力というものを識別してきた数多くの宗教や倫理的思考体系、その他の古代からの伝統とは対照的に、ポストモダニズムは、このような努力こそが人類の失敗の原因だと仮定する。かくしてポストモダニズムは、ただ1つの道徳規範に従う:他の人々が善を意味すると仮定する全てを貶めるべきなのだ。というのも、あるものが、他のものより優れていると信じる結果必然的に、偏見や人間間の反目、不平等が生まれるからだ。

かくして、ミロのビーナスは尿瓶一杯の小便の中に立つ十字架より芸術的ではなくなる;ベートーベンの交響曲は最新のトップ40ヒット曲より深遠ではない;全ての宗教は根本的には同じであり、それら宗教の「穏健な」ポストモダン的追随者の教義は、「共存せよ」というバンパーのステッカーに居心地良く象徴されるのだ。ある意味、これは文化などではなく、他の人々が評価するものを解体する程度でもって成功を測る反文化なのである。


ポストモダニズムは単に偽善的理想主義を隠しているだけだ

ポストモダニズムの信奉者が何も信じず、何にも価値を認めないのだとすれば、この人たちは何も気にかけないのだと結論しても不合理ではあるまい。しかし、このような人々を知っている人ならば、何ごとも真実からかけ離れてはあり得ないことも知っている。むしろ、「無差別というカルト」は、世界をより良い場所にしようという純真な理想主義で満たされており、それが根拠のない偏見に挑む場合には、世界をより良い場所にするのである。他のユートピア的なビジョン同様、ポストモダニズムも人間をその本性とは異質な何かに作り変えようとするのだが、妥協ができないので、偽善や狂信と結び付くのである。

このような偽善は、PC軽視への怒りが選択的に適用されるとき明らかとなる。数多い「攻撃」の不誠実さを示すおそらくベストな例はMSNBCだろう。この局は、アメリカ人の生活の中にある全ての偏見のガードマンをもって自ら任じながら、この局が他人のために設定した基準に従って行動することに繰り返し失敗しているのだ。
http://www.hollywoodreporter.com/live-feed/msnbc-fires-employee-responsible-cheerios-675794
(※MSNBC公式ツイートが下に掲げる「人種差別的な」シリアルのCMを称賛するツイートを行ったため、ツイートを行った従業員がクビになった由

http://mybigappleny.com/2013/06/07/cheerioscontroversialcm/
https://www.youtube.com/watch?v=Z01qH-jqGBY

※筆者の上掲のリンク先記事によれば、ミット・ロムニーの孫(養子)の1人が黒人であることをけなしたということで、MSNBCのキャスターであるメリッサ・ハリス・ペリー
http://jp.vice.com/lifestyle/broadly-meets-melissa-harris-perry
が謝罪したとされています。 ※※)

著しく対照的なのが、ミット・ロムニーの家族が黒人の赤ん坊を養子にしたことを嘲笑しておきながら、直後に涙ながらに謝罪した、コメンテーターのメリッサ・ハリス・ペリーの態度である。恥じるような素振りながら、深く悔いているようでもない:彼女と同僚たちは、ロムニーをからかった時、深く考えもせずに、本当の感情を表してしまったのだ。
https://www.youtube.com/watch?v=DfCy1nOVK9k
https://www.youtube.com/watch?v=5OpvMvj4beA
でなければ、スターウォーズのダース・ベイダーのキャラクター設定のような些細な事に潜む人種差別主義を暴くようなメリッサ・ハリス・ペリーが、どうしてこんなミスを犯すだろうか?
https://www.youtube.com/watch?v=VDFnrNtqAjo
これから分かるのは、他人のこうした行動に対して示される義憤とは、見せかけだということだ:他の目的のために無理に装われるパフォーマンスなのである。

PC軽視への怒りが選択的なものであることは、2015年の末に、アメリカの大学で沸き起こった最初の抗議行動の1つにおいて鮮明に示された。クレアモント・マッケンナ大学の学部長が、白人でない学生はこの大学にふさわしくないという意味のメールを個人的に送っていたことに抗議するデモの最中に、集まっていた学生たちは、アメリカで人種的偏見に遭った体験について公然と議論していた。
http://www.slate.com/blogs/the_slatest/2015/11/13/claremont_mckenna_dean_resigns_for_don_t_fit_our_mold_email.html
すると、1人の中国人学生が拡声器を手にして、黒人グループから差別を受けた体験を語り始めたのだが、抗議者たちはうんざりした顔で彼女を追い払ってしまったのだ。
https://www.youtube.com/watch?v=A8UTj8lQJhY

彼女が自分の言いたい点をはっきりさせようとしたところ、1人の抗議者が、彼女に拡声器を向けた:「キミは脱線してるよ。いいかい。キミはこの運動の趣旨を見失っている!」 彼女自身の体験にまで議論を拡張してはデモの目標から逸れてしまうということを、この中国人学生は明らかに知らなかったのだ:それはすなわち、大学当局を威圧して、抗議者たちの望むことを行わせることだった。だから彼女は強制的に黙らされてしまったのだ。


ポストモダンに残された唯一のものは権力である

PCの虚偽性にひけを取らないのがその狂信性であり、それは近年、かなり激しさを増している。モジラのCEOに就任したブレンダン・アイク氏がカリフォルニア州の同性婚を禁止する法案(Prop 8)の支持に1000ドル寄付していたことを問題視されて辞職したり、幾つかの大学の学生たちのハロウィーンのコスチュームが不快だといって抗議が爆発したり、本人の性的同一性よりも、生物学的特徴に従ってトイレを使うのを禁じた、幾つかの州法をめぐって論争が起きたりしているのだが、こうした全てが示しているのは、ポストモダンの「無差別というカルト」が成功するほど、死に物狂いになって行く様子である。どうなっているのだろうか?

ポストモダンの人々は、彼らに残された唯一のもの、すなわち権力に最終的な満足を見出す、というのが答えだ。道徳的な優秀性は他人に対する権力の否定できない源泉であり、ポストモダニズムの道徳規範は、この前提を受け入れる誰に対しても、これを手軽に提供する。相手が偏見を持っていると単に仄めかすだけで他人を黙らせられる、このパワーは実に微妙なものであるが、その効き目はいくら強調してもし過ぎということはない。

従って、アメリカ社会がより多様になり、協調的になって行くほど、それにもかかわらず、より多くの人々が至る所で無分別な差別を見かけるようになる。だが、彼らが解体すべき伝統や制度、習慣がネタ切れになって行くと、彼らの怒りに根差したパワーは希薄になって行く。それで、より些細な事に対する道徳的ヒステリーが大きくなるのだ。

2014年頃まで、多くの人々にとってPCは、人々をより敏感にし、礼儀正しくさせる無害な努力だった。チャールズC.W.クックに言わせれば、それは、教会で淑女が行う「舌打ち」のようなものだったのだ。
http://www.nationalreview.com/article/397613/left-realizes-too-late-political-correctness-virus-charles-c-w-cooke
モジラのエピソードや大学の騒動を見て多くの人々はすぐに気付かれるだろう。プライベートでの言動に対する、根拠のないPC軽視への怒りが嵩じる結果、クビにされたり、望むキャリアを断念したり、若者の要求に注意を払い損なった権威ある人物が高慢な鼻を折られたりするのだ。

その信奉者が誰か/何かに自分の行く道の邪魔をさせないことも明らかだろう。PCという怒りのマシンが、あなたの考えの何かが間違っていると判断するや否や、それはあなたの考えや理由づけには何の興味も抱かなくなる:あなたは屈服するか、黙っていなくてはならないのだ。エール大学で抗議する学生が権力を手にしたと気付いたらしい後、彼女と妥協点を見出そうとする苦労を想像してみて欲しい。

https://www.youtube.com/watch?v=7QqgNcktbSA


トランプはポストモダニズムの矛先を相手自身に向けた

こうした状況の全てを見てくると、PCのアジェンダは我慢がならないと思い、自分で考える自由を尊重する人々の頭には、厄介な疑問が湧くことだろう。あなたがどういう理由で何を考えようが、あなたが偏屈だといって懸命に中傷してくる人間に、あなたはどう対応すればいいのだろうか?わざと言葉の意味を変え、真理とは全くもって相対的なものだと主張して、殆ど誰のことも当然のように重大な道徳的誤りを犯していると咎める人間との議論に、どうしたら勝てるというのか?

右翼でポストモダンの、ヒーローらしからぬヒーローを投入するのだ。他のどんな共和党からの大統領候補とも異なり、トランプは直感的にポストモダン文化を理解し、それを利用して、圧倒的な影響をもたらす。

我々が何を言い、何を考えようとも、反対派は我々が悪意に満ち、偏屈だと言って咎めるだろう。彼らに対して、わざわざ別の言い方をして説得を試みたところで何の役に立つだろうか?彼ら自身の相対主義と主観性というルールでプレーし、彼らの根拠のない非難を退け、彼らの一番の泣きどころ ― 偽善者ぶり ― を容赦なく痛打してやるとしよう。何と言っても、真正さに勝る美徳はないし、いんちき以上の悪徳はないのだろうから、わざとらしいPC軽視への怒りを広める人々は極めてひ弱なのだ。

左翼的な立場から非難に抗議して、自分は人種差別主義者でも性差別主義者等でも無いと思った通りを口にするのは、失敗の元である。女性の機会均等について質問を受けたロムニーが、他の言い方で必死に自分の業績を誇示しようとして「女性が一杯つまったバインダー」と発言してどうなったか、思い出されたい。
https://www.washingtonpost.com/blogs/she-the-people/wp/2012/10/17/mitt-romneys-binders-full-of-women/?utm_term=.2f5f4e866e48
トランプは代替案を提示した:事実に基づく、理性的な議論を行うのではなく、前提を否定することで非難を中和していまい、結果、告発者が判定を言い渡す権威を最初から否定するのだ。

トランプが選挙期間中に、「メキシコは強姦魔をアメリカに送っている」という有名なツイートを行い、ショックを受けた人々からの批判が噴出したのに対して、彼は直後に「ラテン系の人たちはトランプが大好きだし、私も彼らが大好きだ」と応えたのである。
http://www.realclearpolitics.com/video/2015/06/23/trump_latinos_love_trump_and_i_love_them.html
同様に、米テレビ番組「アクセス・ハリウッド」での悪名高いテープが出現した後も、クスクス笑いが聴こえる中、大胆にもトランプは、「私ほど女性を尊敬している人はいない」と主張したのだ。
http://theweek.com/speedreads/656364/donald-trump-says-that-nobody-more-respect-women-audience-snickers

トランプの反論を本気にする人が居るだろうか?そんな人は明らかに居ないだろう。それでも彼の非常識な返答は、人種差別主義者であるとか、性差別主義者であると彼を非難しても何の効き目もなく、我々のポストモダンな文化においては、ポストモダニズムだけが重要であることを示した。


詐欺師の一番の泣きどころに反撃

中でも最も重要なのは、ポストモダンのアメリカ人が、独りよがりの詐欺にすぎないものをひどく嫌う点を、トランプが理解していることだ。だから、息もつかせぬ「攻撃」的表現に直面したときの彼の「反撃」には定評がある。「性差別主義的傾向」があるというクリントンの言葉に対して、彼女の夫が女性を性的に虐待した過去を持ち出したトランプの応答からも、これは明らかだ。
http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/264086-hillary-trump-has-a-penchant-for-sexism
http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/264271-trump-fires-back-hitting-bill-clintons-penchant-for
予想されるような、謝罪してから話題を変えるという王道ではなく、トランプは告発者に対して、彼らの道徳的な怒りの表明は権力争いでしかないという、まことに確かな事実を呼び掛けることを選んだのだ。

実際トランプがPC軽視への怒りを挑発するのは、まさにこのせいだ。トニー・モンタナが、ぽかんと口を開けたカントリークラブの聴衆に対して鏡を向けるのと同じように、トランプは快い、息を飲むような妙技を1つ、また1つとやってのけたのである。

挑発しておいて勝つというトランプの戦略の最たる例はおそらく、移民問題に対する彼のアプローチだろう。移民を制限しようという提案は、いかに緩やかなものであろうと、常に移民排斥主義的であり、人種差別主義的であるという非難に遭うものだ。それなら、なぜあえて戦うのか?トランプは、何千万もの人々を国外追放するという、ホントにゾッとするような提案を最初に行うことで、困難を乗り切る道を選んだ。予期に違わず、怒りのマシンが猛烈に動き出した時、彼は予想されたような応急の収拾策(ダメージコントロール)を取らなかった。そうする代わりに彼は、非難をはねつけて、成り行きに任せたのだ。

トランプは人種差別主義者、ファシスト、その他諸々だと、批判者が過熱して騒ぎ立てるのを彼が無視すると、こうした怒りは徐々に衰えて行った。というのも、批判には期待した通りの効果がなかったからだ。さて、様々な問題に対するトランプによる釈明の全てが検討されてきたわけだが、それらは割に筋が通っていて、その後それらに向けられたPC軽視への怒りの噴出はうつろに響くように思われる。このようにして、トランプは繰り返し、怒りのマシンを大人しくさせ、抑え込んできた:イスラム教徒の入国禁止、テロリストの家族殺害、ベトナム戦争で捕虜になったというジョン・マケイン議員への侮辱 − これら全てが、彼を共和党の指名争いに勝利させる結果となったのだ。


こうして我々はトランプを大統領に選んだ

民主党は、共和党予備選挙でのトランプ勝利を嬉々として歓迎した。下品なおどけ者であると散々見下し、ヒトラーの再来だと嘲笑できるだろうと期待してのことだ。もっといいことには、トランプ支持者の驚くべき急増は、国民の半分が民主党サイドの長年の予測に違わぬ人々であることを裏付けるものであり、今や民主党サイドは、大声でこう言うのも自由だと思ったのだ:すなわち、共和党サイドは確かに救いようのない人種差別主義者であり、性差別主義者、ホモ嫌いの嘆かわしい人々である、と。主流派の共和党員たちは、こんな気味の悪い人たちと関わり合うくらいなら、きっと急進派の列車に飛び乗ることだろう。

もちろん、そうはならなかった。だが、どうしてだろうか?それは、トランプが勝ち続けているのが彼のイカレた発言のせいではなく、それが惹き起こした、まやかしの怒りと気取って見下す態度のせいだということを、彼の政敵たちが理解できなかったからなのだ。多くの人々が、トランプがわざと自ら浴びた軽蔑の言葉に持ちこたえる彼に共感した。トランプはヒーローらしからぬヒーローの役を演じ続け、クリントンは真珠を手に入れるペテン師の役を演じ続けたのだ。

そう、所得税を払わないから、私は悪党でしょうか?多分そうでしょう。ですがそうすることで私は、あなたの選挙運動を支援している、他の全ての億万長者同様、賢くなるのです。そう、私は性差別主義者です。だって、スーパースターというステータスのお蔭で、私は女性のお○○こをつかむことができるんだと自慢してるビデオを見たでしょう?多分、そうでしょう。ですが、この公の場で4人の女性を紹介させてください。彼女たちは、あなたの夫に公然猥褻からレイプに至るあらゆる事をされたと、あなたの夫を告発した人たちです。そう、請負業者への代金支払いをしぶる、私は強欲な実業家でしょうか?結構ですとも。あなたは、国益に反する行為で私腹を肥やす堕落した政治家じゃないですか。

私に関して彼らが言っていることはおそらく全て本当でしょう。でも、私は少なくとも偽りませんし、少なくとも正直です:それにひきかえ、あなたは血なまぐさくて、嫌気がする偽善者です。

それじゃあ、悪党におやすみを言いな!だって、この悪党こそが、我々の新大統領なのだから。


---
SOTT編集部コメント:ポストモダニズムは病的で、分裂病的な思想である。それはまた、基本的に自己破滅的だ。というのも、それは基本的に間違っており、反人間的だからだ。いやが応でも、好むと好まざるとにかかわらず、私たちの西洋文明のように、それに汚染された社会で勝利する唯一の方法は、それのルールと弱みでもってそれに対抗することなのだ。しかし、体制内にカオスを取り込む結果、「ニュー・ノーマル」がどの方向に向かうかに関しては、不確実性が生まれることになる。
posted by たカシー at 12:25| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月19日

心理統計学:「ビッグデータ」というツールはドナルド・トランプがアメリカ大統領選で勝利する上で一役買ったか?

SOTT パペットマスター


心理統計学:「ビッグデータ」というツールはドナルド・トランプがアメリカ大統領選で勝利する上で一役買ったか?
https://sott.net/en341714
http://www.gizmodo.jp/2017/02/trump-win-with-big-data.html
http://gigazine.net/news/20170203-data-turned-world-upside-down/


ハンネス・グラセガー/ミカエル・クロゲラス
マザーボード
2017年1月28日


(写真:トランプ)
c Unknown

心理学者のミカル・コジンスキーは、Facebook(FB)ユーザーのFB上での行動に基づいて、そのユーザーを事細かに分析する方法を編み出した。それと似たツールが、ドナルド・トランプの勝利に一役買ったのだろうか?チューリッヒのダス・マガツィーン誌の2人の記者が、データ収集について報告する。

2016年11月9日の8時30分頃、ミカル・コジンスキーはスイス・チューリッヒのスンネフスホテルで目を覚ました。34歳の心理学者であるコジンスキーは、スイス工科大学でビッグデータとデジタル革命の危険性について講義するためにやってきたのだ。コジンスキーはこのテーマについて、世界中で定期的に講義を行っている。彼は心理統計学という、データを用いた心理学の1分野の第一人者である。この日の朝テレビをつけた彼に、寝耳に水のニュースが飛び込んできた:大方の予想に反して、ドナルド・J・トランプがアメリカ大統領に選ばれたのである。

コジンスキーは長いこと、トランプの勝利祝賀会や各州の開票結果を眺めていた。この選挙の結果が自身の研究と何か関係があるかも知れないと彼は直感したのだ。深いため息をつくと、彼はテレビを消した。

これと同じ日に、この時点では殆ど無名だった、イギリスのロンドンを拠点とする、ある会社がプレスリリースを公開した。その中には「データ主導的コミュニケーションに対する我が社の革新的なアプローチが、トランプ次期大統領の類まれな勝利において重要な役割を果たしたことに感動しています」という、アレグサンダー・ジェームス・アシュバーナー・ニクスCEOのコメントが引用されていた。イギリス人のニクスは41歳。ケンブリッジ・アナリティカ社のCEOである。彼は常に塵ひとつない、あつらえの服にブランドものの眼鏡という出で立ちをし、ウェーブのかかったブロンドの髪を額から後ろになでつけている。彼の会社は、トランプのオンライン選挙活動で重要な役割を果たしただけでなく、EUからのイギリス脱退(ブレグジット)キャンペーンにおいても大きな役目を果たした。

内省的なコジンスキーは研究でデジタル革命を可能にし、身だしなみに気を使うニクスはそれを実行に移し、ニヤリと笑うトランプはその恩恵を被ったのである。

(動画)
https://motherboard.vice.com/en_us/article/how-our-likes-helped-trump-win


ビッグデータはどれくらい危険か?

この5年間を他の惑星で過ごした人でもなければ、ビッグデータという言葉はお馴染みのものだろう。ビッグデータとは要するに、私たちがオンラインもしくはオフライン端末で行ったあらゆる行動が残すデジタルの軌跡のことだ。ネット上でカードを使って何を購入したか、グーグルで何を検索したか、ポケットのスマホで何をしたか、何に「いいね」をしたかが全て、情報として蓄えられる。特に、「いいね」は重要である。このようなデータにどんな使い道があるのかは、長い間必ずしも明らかでなかった ― 「血圧を下げる」とググった後で、高血圧治療の広告が表示されるのを別とすれば多分。

だが、昨年の11月9日、もっとずっと多くの事がおそらく可能であるらしいことが明らかになった。トランプのオンライン選挙活動を支えていた会社 ― ブレクジット運動初期の離脱派組織「Leave.EU」の仕事をしていたのと同じ会社 ― が、ビッグデータ分析会社であるケンブリッジ・アナリティカである。

選挙の結果について ― そして、政治的コミュニケーションが将来、どのように機能するかについて ― 理解するには、2014年にケンブリッジ大学のコジンスキーの心理統計学センターで起きた奇妙な出来事に遡らねばならない。

「心理統計学」は「サイコグラフィックス」とも呼ばれるが、個人の心理的な特徴を測定することにフォーカスするものである。1980年代、心理学者による2つの研究チームが、人間の5つの性格特性=「ビッグ5」を基に心理状態を評価するためのモデルを開発した。5つの性格特性というのは:「開放性 (openness:新しい経験に対してどれくらいオープンか?)」、「真面目さ (conscientiousness:どのくらい完璧主義者か?)」、「外向性 (extroversion:どれくらい社交的か?)」、「同調性 (agreeableness:どれくらい思慮深く、協力的か?)」、「神経症的傾向 (neuroticism:簡単に取り乱すか?)」である。これらの評価軸 ― それぞれの頭文字を取って、OCEAN(オーシャン)の略語でも知られる ― を用いることで、比較的正確に周りの人間のタイプを評価することができるのだ。人が何を求めているか?や、何を恐れているか?さらには、どんな行動を行いがちか?といったことをである。「ビッグ5」は心理統計学における標準的なテクニックとなった。しかし、このアプローチはデータ収集に問題があると長い事考えられていた。なぜなら、複雑かつ極めて個人的なアンケートに答えてもらう必要があったからだ。すると登場したのがインターネットであり、FB、そしてコジンスキーだったのだ。

ミカル・コジンスキーの人生に転機が訪れたのは、彼がワルシャワで学生をしていた2008年のことだった。コジンスキーは、英ケンブリッジ大学にある、世界最古級の心理統計学研究所の博士課程への進学を認められたのだ。コジンスキーは、そこで同じ院生のデヴィッド・スティルウェル(現在はケンブリッジ大学の経営大学院講師)と組むことになったのだが、スティルウェルはちょうどふたりが出会う1年前に、まだこんなに巨大なプラットフォームとなる前のFB用に、ちょっとしたアプリをリリースしたばかりだった。彼らの「MyPersonality」というアプリを使うと、ユーザーは様々な心理統計学のアンケートに答えることが出来た。質問の中には、ビッグ5の人格アンケート質問(「私はパニクりやすい」、「私は他人の意見に反論する」)を始めとする、心理学的な質問がほんの一握り含まれていた。評価に基づいて、ユーザーは「パーソナリティ・プロフィール」と呼ばれるもの ― 個々人のビッグ5の値 ― を受け取るのだが、その際、研究者にFB上のプロフィールをシェアするか選択できるようになっていた。

コジンスキーは大学の友人2-30人がアンケートに答えてくれればと思っていたのだが、程なく、何百、何千、何百万という人々が、心の奥深くにある信念を明かしてしまった。2人の博士号候補者は、突如として、心理統計学スコアとFBのプロフィールを組み合わせた、これまでに収集されたことのない最大のデータセットを手に入れたのである。

コジンスキーと彼の同僚たちが、その後の数年間で発達させたアプローチは、実は極めてシンプルなものだった。まず最初に彼らは被験者に対して、オンラインクイズの形でアンケートを示した。心理学者たちは得られた回答から、回答者個人ごとのビッグ5の値を計算した。次にコジンスキーのチームは、その結果を他のオンライン被験者データの全てと比較した:例えば、FB上で彼らが「いいね」をしたり、シェアしたり、投稿したものや、彼らが登録した性、年齢、住所とである。こうすることで研究者たちは、被験者の性格の全体像を明らかにし、それとFB上の活動との相関関係を導き出すことができた。

簡単なオンラインでの行動から、極めて信頼できる結果を推論することが可能なのだ。例えば、化粧品ブランドのMACに「いいね」する男性はゲイの可能性がやや高く、異性愛者であることをうかがわせるベストな兆候の1つはアメリカのヒップホップグループであるウータン・クランに「いいね」していることなのだ。レディー・ガガの信奉者は殆どが外交的である一方、哲学に「いいね」している人は、内向的な傾向があった。このような情報は1つでは弱すぎて、信頼できる予測ができないけれど、何十、何百、何千もの個人データを組み合わせる結果、実に正確な予測ができるのである。

コジンスキーとチームは、辛抱強くモデルの精度を上げて行った。2012年、コジンスキーはFBの「いいね」の数を平均68個分析することで、ユーザーの肌の色(正解率95%)、性的嗜好(正解率88%)、民主党と共和党のどちらを支持しているか(正解率85%)を当てられるようになった。だが、これだけではなかった。知性や、属する宗教、アルコール・タバコ・ドラッグを常用しているかも判定できたし、データからは、親が離婚しているかまで推定することができた。

彼らのモデルの強力さは、どの程度被験者の答えを予測できるかによって示された。コジンスキーは絶えずこのモデルに取り組み続けた:そのうちに彼は、FBの「いいね」だけを手掛かりに、平均的な同僚よりもずっと正しく、FBユーザーを評価できるようになった。「いいね」70件を見ればその人の友達よりも、150件を見れば両親よりも、300件を見ればパートナーよりも、その人のことがよくわかるまでになったのである。それ以上の数の「いいね」を見ると、当人以上にその人が分かってしまうほどだった。ある日、コジンスキーがこの結果を論文として公表したところ、電話が2本かかってきた。1本は訴えるぞという脅しで、もう1本は仕事のオファーだったが、どちらもFBからだった。

(写真)
c Kosinski
ミカル・コジンスキー

「いいね」がデフォルトで非公開になったのは、わずか1週間後のことだった。それ以前は、ネット上の誰もが、あなたの「いいね」を見れるというのがデフォルトの設定だったのだ。だが、この措置も、データ収集者にとっては何の障害にもならなかった:コジンスキーはFBユーザーに対して常に同意を求めていたし、こんにちの数多くのアプリとオンライン・クイズは、プライベートなデータへのアクセス許可を性格検査を受ける上での必須条件として求めているからだ。
http://applymagicsauce.com/
(FBの「いいね」によって自己評価を行いたい人は、コジンスキーのサイト
http://applymagicsauce.com/
でそれが可能だし、古典的なオーシャン・アンケートの結果との比較も、ケンブリッジ心理統計学センターのサイト
https://discovermyprofile.com/personality.html
に行けば可能である。)
  
FBの「いいね」からでもかなり詳細な個人情報を推定できるのだが、コジンスキーのチームは今ではビッグ5の値をFB上にプロフィール写真が何枚あるかあるいは、友達が何人いるか(外交性の良い指標である)だけからでも判定できる。だが私たちは、オンラインでないときでも、自分に関する情報を明かしているのだ。例えば家電話にモーションセンサーが内蔵されていれば、どのくらい素早く移動し、どのくらいの期間旅行に出かけているかについて、私たちは情報を明かしているのだ(これは感情的な不安定さに関係する)。スマホを使うのは、意識してであれ、無意識にであれ、巨大な心理学のアンケート用紙を常に埋めていくようなものだと、コジンスキーは結論付ける。

だが何と言っても重要なのは、逆もまた可能であるということだ:得られたデータから心理的プロフィールを作成することが可能なだけでなく、そうしたデータから特定のプロフィールを探し出すことも可能なのである:心配性な父親や怒りっぽい内向的な人、さらには例えば、優柔不断な民主党支持者は誰なのか?まではじき出すことが可能なのだ。本質的にいえば、コジンスキーが発明したのは一種の人間検索エンジンだったのである。コジンスキーはこの手法の可能性と共に、潜在的な危険も認識するようになった。

彼にとってネットは、常に天からの恵みだと思われた。彼はそこから何かを取り戻し、シェアしたいと思っていたのだ。データはコピーできる。それでは、どうしてそこから恩恵を得てはいけないのか?これは世代全体の願いであり、物質世界の制限を超越する新時代の始まりなのだ。だが、もし誰かが、彼の人間検索エンジンを濫用して人心を操作したらどうなるだろうか?とコジンスキーは思った。それに気づいたコジンスキーは論文に、彼の「アプローチには人間の幸せ、自由、人生すら台無しにする恐れがある」と警告を添えるようになったのだが、誰もその真意を理解する人はいなかった。

この頃、2014年の初頭に、コジンスキーに対して、アレクサンドル・コーガンという心理学准教授からアプローチがあった。コジンスキーの手法に興味を持った、ある会社に頼まれたということで、例の「MyPersonality」のデータセットが欲しいというのだ。コーガンはどんな理由であれ、依頼主の秘密を守らねばならないと言う。

最初コジンスキーのチームは、このオファーを、研究所に大金をもたらすものだと考えたのだが、やがて、コジンスキーはためらうようになった。そしてついにコーガンは依頼主である会社の名前を明かした、とコジンスキーは回想する:それはSCL、すなわち戦略的コミュニケーション研究所(Strategic Communication Laboratories)だった。コジンシキーはこの社名をググった:会社のウェブサイトによれば、「ナンバーワンの選挙管理代理店である」とのことだった。SCLは心理モデルに基づくマーケティングを提供するという。その中核事業は選挙に影響を及ぼすことだと。選挙に影響を及ぼすって?不安になったコジンスキーはクリックしてページを繰って行った。これは一体どんな会社なんだ?この人達は何を企んでいるんだ?

この時のコジンスキーには分からなかったが:SCLというのは、ある企業群の親会社だったのだ。SCLのオーナーが実際には誰であり、多岐に亘る子会社が何なのかも、イギリスの企業登記所やパナマ文書、デラウェア会社法登記に見られるような堂々巡り的な構造のせいで分からない。子会社の中には、ウクライナからナイジェリアに至る選挙に関与したものや、反乱からネパール王を救ったものもあったが、それ以外はNATOのために、東欧とアフガンの市民に影響を与える方法を開発した企業群だった。
https://sclgroup.cc/elections/projects
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/dispatches/2005/09/you_cant_handle_the_truth.html
https://sclgroup.cc/defence/projects/
http://stratcomcoe.org/countering-propaganda-nato-spearheads-use-behavioural-change-science
http://www.jwc.nato.int/images/stories/threeswords/JWC_Magazine_May2015_web_low.pdf
そして2013年にアメリカ大統領選に参加するためにSCLから分離した新会社がケンブリッジ・アナリティカだったのである。

コジンスキーはこうした事をいずれも全く知らなかったが、嫌な予感がした。「全てが悪臭を放ち始めたんだ」と彼は振り返る。さらに調べて行くうち、アレクサンドル・コーガンはSCLと共にビジネスを行うため秘密裏に会社を設立していたことも分かった。2015年にガーディアンに載ったレポートおよびダス・マガツィーンが入手した内部文書によれば、SCLはコーガンからコジンスキーの手法を学んだのだろうという線が浮上する。
https://www.theguardian.com/us-news/2015/dec/11/senator-ted-cruz-president-campaign-facebook-user-data

コーガンの会社はこの「選挙に影響を与える企業」に売るために、FBの「いいね」を元にビッグ5を測定するツールを複製したのではないだろうか、とコジンスキーは疑い始めた。コジンスキーは直ちにコーガンとのコンタクトを打ち切り、研究所の所長を告発、大学内で複雑な戦いの火花を散らした。研究所は評価が下がるのを悩んだ。アレクサンドル・コーガンはシンガポールに渡り、結婚して、名前をスペクトル博士に変えた。
http://cpwlab.azurewebsites.net/CV/Aleksandr%20Kogan%20CV%20Website.pdf
ミカル・コジンスキーは博士課程を修了し、スタンフォード大に職を得て、アメリカに渡った。


ミスター・ブレクジット

その後約1年間は万事平穏だった。そして2015年の11月、ブレクジット・キャンペーン2派のうち、ナイジェル・ファラージが支持する急進派の「Leave.EU」が、オンライン・キャンペーンを支援するビッグデータ会社としてケンブリッジ・アナリティカを雇ったと発表した。
http://leave.eu/en/news/2015-11-20/the-science-behind-our-strategy
この会社のコアとなる強みは:「オーシャン・モデルに基づいて、デジタルの足跡から人々の人格を分析するマイクロターゲティング=革新的な政治マーケティング」だという。

すると、コジンスキー自身はこの会社とどういう関係なのか?と尋ねるメールを、彼は数多く受け取ることとなった ― ケンブリッジ、人格、分析というキーワードから、人々は即座にコジンスキーのことを考えたのだ。コジンスキーがこの会社名を聞いたのはこれが最初だった。同社によると、この社名はかの大学出身の研究者で、同社の最初の社員からとったのだという。ゾッとしつつ、彼は同社のウェブサイトを見た。彼の手法が、政治目的で大々的に使われているのだろうか?

やがて、英国のEU離脱が決まった。コジンスキーの友人・知人はこう書いて寄越した:「なんてことしてくれたんだ!」 行く先々でコジンスキーは、自分はこの会社と何の関係も無いと説明しなくてはならなかった。(ケンブリッジ・アナリティカがブレクジット・キャンペーンにどの程度関わっていたかは依然明らかでない。ケンブリッジ・アナリティカ社はこの質問に取り合わないのだ。)

その後の数か月は、比較的平穏だった。そして、米大統領選投票日1カ月前の2016年9月19日、ニューヨークのグランドハイアットホテルのダークブルーに照らされたホールに、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの『バッド・ムーン・ライジング』のギターリフが鳴り響いた。ここで開催されていたコンコーディア・サミットというのは、世界経済フォーラムのミニチュア版のようなものだ。世界中から政策決定者が招待されており、スイス大統領であるヨハン・シュナイダー=アマンの姿もあった。「拍手でお迎えください。ケンブリッジ・アナリティカのCEO、アレグザンダー・ニクスの登場です」と滑らかな女性の声でアナウンスがあった。
https://www.youtube.com/watch?v=n8Dd5aVXLCc
暗い色のスーツを着たスリムな男がステージに上がった。会場が静かになった。出席者の多くは、彼がトランプが雇ったデジタル戦略担当マンだと知っていた。(プレゼンのビデオがユーチューブに上がっている。)
https://www.youtube.com/watch?v=n8Dd5aVXLCc


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編集部コメント:
https://www.youtube.com/watch?v=n8Dd5aVXLCc
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数週間前、トランプは些か謎めいたツイートを行っていた。「じきにみんな私のことをミスター・ブレクジットと呼ぶようになるだろう」。政治評論家たちは確かに、トランプのアジェンダと右翼的なブレクジット運動との間に、何やら著しい類似性があることに気付いていた。だが、トランプがケンブリッジ・アナリティカというマーケティング会社を雇ったばかりだとこの時点で気づいて居た人は殆ど居なかった。

(写真)
c Cambridge Analytica
アレグザンダー・ニクス

この時までのトランプのデジタル選挙活動は、ほぼ1人が行っていた:ブラッド・パースケイルというマーケティング企業家がその人であり、彼は18万円で簡単なトランプのウェブサイトを立ち上げたが、彼の活動は失敗に終わっていた。70歳になるトランプはデジタルに疎い ー 彼の執務机にはコンピューターさえ無いのだ。トランプはメールをしないと、彼の個人秘書が明かしたことがある。彼女がスマホを持つよう勧めて以来、トランプはひっきりなしにツイートするようになった。

これにひきかえヒラリー・クリントンは、最初の「ソーシャルメディア大統領」であるバラク・オバマの遺産に大いに頼っている。彼女は民主党選挙人のメアドリストを持っているし、ブルーラボ(BlueLabs)社の最先端のビッグデータ分析者を雇い、グーグルとドリームワークから支援を受けていた。
http://bluelabs.com/
2016年6月に、トランプがケンブリッジ・アナリティカを雇ったことがアナウンスされると、ワシントンの体制派は鼻であしらった。「あつらえのスーツを着た外国の奴らにアメリカやアメリカ国民のことなど分かるというのか?本気なのか?」

「選挙プロセスにおけるビッグデータとサイコグラフィクスの威力を本日お話しする栄誉を与えられました」。ネットワークノードで出来た脳をあしらった地図のようなケンブリッジ・アナリティカのロゴが、アレグザンダー・ニクスの後ろに現れた。「ほんの18か月前には、クルーズ上院議員はあまり有名でない大統領候補の1人でした」。ブロンド髪のニクスは王侯貴族のような発音で説明する。標準的なドイツ風のアクセントにスイス人は落ち着かなくなるが、それと同じようにアメリカ人には聞こえる英語である。「彼の知名度は40%以下でした」とニクスはスライドを読み上げた。ケンブリッジ・アナリティカはこれよりほぼ2年前から米大統領選に関与しており、当初は共和党のベン・カーソンとテッド・クルーズのコンサルタントだった。クルーズ、そして後にはトランプも、アメリカのソフトウェア業界の知る人ぞ知る億万長者ロバート・マーサーから専ら資金提供を受けていたが、ロバートと娘のレベカの2人は、ケンブリッジ・アナリティカへの最大の出資者だと報じられている。
https://www.nytimes.com/2016/08/19/us/politics/robert-mercer-donald-trump-donor.html
https://www.washingtonpost.com/news/post-politics/wp/2016/09/24/the-mercers-top-backers-of-both-ted-cruz-and-donald-trump-applaud-cruzs-decision-to-finally-endorse-the-nominee/?utm_term=.ba19c115cd60
http://www.politico.com/story/2016/11/rebekah-mercer-donald-trump-231693

「それで、彼はどうしたでしょうか?」これまでの選挙運動は、人口統計学の考え方に基づいて組織されてきた、とニクスは説明する。「実にばかばかしい考え方です。女性は女性であるがゆえに、全員同じメッセージを受けとるべきであり、アフリカ系アメリカ人は、民族性ゆえに同様であるというのですから」。ニクスが言わんとしているのは、これまでの他の選挙活動者たちは人口統計学頼みだったが、ケンブリッジ・アナリティカは心理統計学を用いているということだ。

これは本当かも知れないが、クルーズの選挙活動におけるケンブリッジ・アナリティカの役割は異論の余地が無いものではない。2015年12月、クルーズ陣営は、心理データの使用と分析のお蔭で勝利を収めつつあると考えていた。宣伝全盛の時代には、ケンブリッジのスタッフの参画は「外付けの特別タイヤのような」ものだが、ケンブリッジのコア商品である有権者データ・モデリングは「素晴らしい」と、ある政治家のクライアントは語る。
http://adage.com/article/campaign-trail/cambridge-analytica-toast/305439/
クルーズ陣営は、5月にレースから撤退する以前、アイオワの党員集会で自分を支持してくれる有権者を見極める支援を受けるために、この会社に少なくとも6億5千万円を支払い、勝利していた。
https://www.opensecrets.org/pacs/expenditures.php?cmte=N00033085&cycle=2016#topvendors
https://www.washingtonpost.com/politics/cruz-campaign-credits-psychological-data-and-analytics-for-its-rising-success/2015/12/13/4cb0baf8-9dc5-11e5-bce4-708fe33e3288_story.html

ニクスはクリックして次のスライドに進んだ:5つの異なる顔が並んでいる。それぞれは「パーソナリティ・プロフィール」に対応するものだ。これがビッグ5ないしオーシャンモデルである。「ケンブリッジ社は、アメリカの成人1人1人の性格を予測するモデルを作ることができます」。聴衆は魅了された。ニクスに言わせれば、ケンブリッジ・アナリティカのマーケティングの成功は3つの要素を組み合わせた結果である:オーシャンモデルを用いた行動科学、ビッグデータ分析、そして、アド・ターゲティングである。アド・ターゲティングというのは、個人に特化した宣伝(アドバタイジング)であり、個人消費者のパーソナリティーに可能な限り正確に合わせたものなのだ。

ニクスは彼の会社がどうやってこれを行うか、腹蔵なく説明した。まず、ケンブリッジ・アナリティカは、多彩なソースから個人データを購入する。不動産登記、自動車購入データ、ショッピング・データ、ボーナスカード、クラブ会員証、雑誌購読者リスト、所属教会員名簿のようなものだ。ニクスは、アクシオムやエクスペリアンといった世界で活動しているデーター・ブローカーのロゴを映し出した ― アメリカでは、殆ど全ての個人データが売りに出されているのだ。例えば、ユダヤ人女性はどこに住んで居るのか知りたければ、その情報を、電話番号付きで買えばいいのである。それからケンブリッジ・アナリティカは、これらのデータを共和党の選挙人名簿やオンラインデータと統合し、ビッグ5のパーソナリティー・プロフィールを計算する。デジタルな足跡が突如として、怖れやニーズ、関心を持ち、住所が分かっているリアルな人々になるのだ。

この手法は、以前にミカル・コジンスキーが開発したものと極めてよく似ている。ケンブリッジ・アナリティカもまた、「ソーシャルメディアの調査結果」やFBのデータを利用している、とニクスは語る。
https://ocean.cambridgeanalytica.org/
この会社は、まさにコジンスキーが警告していた通りのことを行っているのだ:「我が社は、アメリカの成人1人1人のパーソナリティーをプロファイリング済みで、その数は2億2千万
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98%E9%81%B8%E6%8C%99
に上ります」とニクスは豪語した。

彼はスクリーンショットを開いた。「これは、わが社がクルーズの選挙活動のために準備したデータダッシュボードの画面です」。デジタルのコントロールセンターが現れた。左側には図;右側にはアイオワ州の地図。クルーズが予備選挙で驚異的な得票数で勝利した州である。地図上には、数十万もの小さな赤と青の点がある。ニクスは読み上げながら、条件を絞り込んで行く:「共和党支持」 − 青い点が消える;「支持未確定」 − さらに多くの点が消える;「男性」云々。最後に、ただ1人の名前が残った。年齢、住所、関心事項、パーソナリティー、政治的傾向が付記されている。さて、ケンブリッジ・アナリティカは、この人物をターゲットに、どうやって相応しい政治的なメッセージを届けるのだろうか?

(写真)
c Concordia Summit
ニューヨークで開催された2016コンコーディア・サミットでのニクス・アレグザンダー

サイコグラフィックスでカテゴリー分けされた有権者は、例えば、合衆国憲法修正第2条(=「 規律ある民兵は自由な国家の安全保障にとって必要であるから、国民が武器を保持する権利は侵してはならない」)
にいわゆる銃を持つ権利に関して、異なった対応をとることをニクスは示した。「高度に神経症的で、真面目な聴衆にとって、強盗は脅威であり、銃は保険となるのです」。プレゼン画面の左側には、窓を打ち壊している強盗の手が映し出され、画面の右側には、夕日の中で野原に立つ男と子どもが映し出される。銃を持った2人が撃っているのは明らかにカモである:「逆に、内向的で同調的な聴衆の場合には、伝統や習慣、家族を気に掛ける人々向けのメッセージを訴えるのです」。


クリントンに入れそうな有権者を投票箱から遠ざけておくには

トランプの際立った一貫性のなさ、大きな批判を浴びている移り気さ、その結果生み出される沢山の矛盾したメッセージは、突如として彼の大きな強みとなった:有権者ごとに異なったメッセージが向けられるのだ。トランプは聴衆の反応に従った、完璧に日和見主義的なアルゴリズムによって行動しているという所見を、数学者のキャシー・オブライエンが2016年の8月に述べている。
https://mathbabe.org/2016/08/11/donald-trump-is-like-a-biased-machine-learning-algorithm/

「トランプが発していたメッセージの殆どはデータに基づいていました」とアレグザンダー・ニクスは回想する。トランプとクリントンによる大統領選第3回討論会の日、トランプ陣営はどういった議論を繰り広げるべきかの答えを見つけるために、FB上で17万5000個もの異なるバリエーションの広告を試した。受け手にとっての最適な心理的効果を狙って、メッセージの殆どは微細な点が違っていた:見出し・色・キャプション・写真・動画などそれぞれが少しずつ異なっていたのである。このような微調整によって、最も小さなグループにもメッセージは届いたと、ニクスは私たちが行ったインタビューで説明した。「わが社は村や団地単位で狙ったメッセージを届けることができました。個人にさえもです」

例えばマイアミ市内のハイチ地区に対してトランプ陣営は、住民たちがヒラリー・クリントンに投票しないよう、クリントン財団がハイチ地震の復興支援義援金を着服していたというニュースを配信した。これは幾つかある目標のうちの1つだった:クリントンに投票しそうな有権者たち(これには、左翼寄りの人々やアフリカ系アメリカ人、若い女性層が含まれる)を投票箱から遠ざけておき、こうした人たちの票を「抑える」のである。選挙の数週間前に、トランプ陣営の上級スタッフがブルームバーグに語った話だ。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2016-10-27/inside-the-trump-bunker-with-12-days-to-go
このような「ダークポスト」
http://digiday.jp/platforms/what-are-dark-posts/
― FBのタイムラインに表示されるスポンサーのついたニュースフィード・スタイルの広告で、特定のプロフィールのユーザーにしか見えないもの − の例としては、ヒラリー・クリントンが黒人男性をプレデターと呼んでいるという内容の、アフリカ系アメリカ人を狙った動画を挙げることができる。

コンコーディア・サミットでのニクスの講演の結びの言葉は、伝統的な無差別広告は死んだ、というものだった。「我々の子どもたち世代はきっと、マスコミュニケーションという考え方を理解できないでしょう」。そしてステージを降りる直前に彼は、クルーズがレースを降りてから、彼の会社は戦い続けている大統領候補の1人を支援している、と宣言した。

アメリカ国民がこの時点でどれくらい正確にトランプ陣営のデジタル部隊によって狙いを定められていたかは、目に見えるかたちでは分からなかった。というのも、彼らの攻撃はメディアの主流であるテレビによるものではなく、ソーシャルメディアやデジタルTV上の個人向けのメッセージによるものだったからだ。人口統計による見積もりから、クリントン陣営がリードを確信していた頃、サンアントニオを訪れたブルームバーグのジャーナリストであるサーシャ・アイゼンバーグは、その地にトランプ陣営のデジタル選挙活動の拠点である「第2の選挙対策本部」が構築されているのを見て驚いた。トランプ陣営専属だったケンブリッジ・アナリティカのスタッフはわずか12名ほどだったが、2016年7月に10万ドル(約1100万円)、8月に25万ドル(約2800万円)、9月には50万ドル(約5600万円)を受け取った。ニクスCEOによると、大統領選全体で同社は1500万ドル(約17億円)以上を稼いだという。(同社は個人情報データの譲渡に関する法規制がEU諸国よりも緩いアメリカの法人組織である。EUのプライバシー法では個人情報データを譲渡するには、本人がオプトイン(許可)する必要があるが、アメリカではユーザーが「オプトアウト」しない限り、データの譲渡が許されている。)

(写真)
c L2
選挙の戸別訪問用アプリであるグラウンドゲーム(=地上戦)。有権者データを「地理空間可視化テクノロジー」によって統合するもので、トランプおよびブレクジットのキャンペーン活動で使われた。

手段は徹底していた:2016年の7月からトランプ陣営の戸別訪問員には、訪問先の住民がどのような性格タイプで、どのような政治的視点を持つかを示す専用のアプリが配られた。ブレクジットの運動時に使用されたのと同じアプリである。トランプの訪問員は、トランプ陣営の意見を受け入れる可能性があるとアプリが評価した住民の家だけを訪問し、住民の性格タイプ別に用意されたガイドラインの通りに会話を進めることができた。訪問後に訪問員は、アプリに住人の反応を入力したので、トランプ陣営のダッシュボードには最新のデータがフィードバックされた。

繰り返すが、これは何ら新しいことではない。民主党も同様のことを行っていたのだ。だが、彼らが心理統計学のプロファイリングに頼ったという証拠は無い。一方のケンブリッジ・アナリティカは、アメリカ国民を32の性格タイプに分類し、特に17の州にフォーカスした。コジンスキーが化粧品ブランドのMACに「いいね」する男性はゲイの可能性がやや高いことを実証したように、同社はアメリカ製の自動車の好みから、潜在的なトランプ陣営の投票者か否かがかなりはっきり分かることを発見した。とりわけこの発見によって、トランプ陣営にはどのメッセージが、どの州で最も有効か分かったのである。選挙戦最後の数週間にトランプ陣営がミシガン州とウィスコンシン州に注力することに決めたのも、これらのデータ分析が基になっていた。選挙の候補者は、ビッグデータ・モデルを構築するための道具となったのである。


次に起こるのは何か?

だが、心理統計学を用いた手法は、選挙の結果にどの程度影響を与えたのだろうか?こう質問した時、ケンブリッジ・アナリティカ社は、選挙活動における有効性に関する証拠を示そうとしなかった。この質問に答えるのは不可能であるということも十分あり得る。

だが、手掛かりはある:予備選挙期間中にテッド・クルーズの支持率は驚くほど上がったのだ。農村部での得票数も上昇した。アフリカ系アメリカ人による期日前投票数は減少した。トランプが大統領選にあまり金をかけなかったというのも、パーソナリティー・ベース広告の有効性によって説明できるかも知れない。ヒラリー・クリントンと比べた場合、彼がTVキャンペーンよりもデジタルにより多く投資したのも、同様にして説明できよう。ニクスが説明した通り、FBは最終兵器であり、最良の選挙運動員であることが証明されたのである。トランプ陣営の中核スタッフのコメントからも、このことは証明された。

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c U.S. Dept. of State
米国務省もケンブリッジ・アナリティカのクライアントであり、同社は英国のテリーザ・メイ首相とも連絡を取っていると報じられている。この写真は、2016年7月19日、米国務長官ジョン・ケリーと一緒のメイ首相。

統計学者の予測が実に的外れだったせいで、彼ら(の支援した候補)が選挙に敗れたのだと主張する人は多い。だが、実際には統計学者の中でも新手法を使った人たちだけが、選挙での勝利に一役買ったのだとしたらどうだろう?科学的リサーチについてしばしば不平を言っているトランプが、選挙運動で高度に科学的なアプローチを採用したのは、歴史の皮肉である。

もう1人大勝利を収めたのが、ケンブリッジ・アナリティカである。同社の役員に名を連ねるスティーブ・バノンは、右翼系オンライン新聞ブライトバート・ニュースの元会長であり、ドナルド・トランプの上級顧問兼首席戦略官に指名された。ケンブリッジ・アナリティカは、イギリス首相テリーザ・メイと進行中であると言われる交渉についてコメントしとうとしないが、アレグザンダー・ニクスは世界中にクライアントを開拓中であり、スイスやドイツ、オーストラリアから引き合いがあったと語る。彼の会社は最近、ヨーロッパのカンファレンスを巡回しており、アメリカでの成功例を展示・説明している。今年、EUの核となる3大国が、復活したポピュリズム政党との選挙を控えている:フランス、オランダ、そしてドイツだ。米大統領選での勝利は、同社が企業広告分野に乗り出そうと準備中の好機に起きた。
https://www.bloomberg.com/politics/articles/2016-11-11/rebekah-mercer-daughter-of-major-donor-named-to-trump-role

コジンスキーはこうした全ての事を、スタンフォード大の研究室から注視していた。アメリカ大統領選の後、この大学は混乱に陥っている。コジンスキーは、研究者に利用可能な最も鋭利な武器で、この分野での進展に応えようとしている:科学分析だ。同僚であるサンドラ・マッツと共に、彼は一連のテストを実施済みであり、結果は間もなく公表されるだろう。テスト初期の結果は憂慮すべきものだった:パーソナリティー・ターゲッティングの有効性の研究の一環として、FB上で実際の広告キャンペーンを行ったのだが、マーケティング担当者が消費者のパーソナリティー特性にマッチする製品広告を行いメッセージを発信したところ、最大で63%ものクリック増と1400件もの乗り換えが起こったのである。彼らはさらに製品やブランドを宣伝しているFBページの大部分は、FBユーザーのパーソナリティーの好みに合うもので、多数のユーザー=消費者が、単一のFBページによって狙い撃ちされていることを示して、パーソナリティー・ターゲティングのスケーラビリティーを実証した。

この記事がドイツで公表された後、ケンブリッジ・アナリティカの広報担当者の1人はこう語った。「ケンブリッジ・アナリティカはFBのデータを使用していない。当社はミカル・コジンスキー博士とは何の取引も行っていない。当社は外部に研究を委託してはいない。当社はコジンスキーと同じ手法は用いていない。当社以外による、サイコグラフィクスの使用実績は殆どない。ケンブリッジ・アナリティカは大統領選でアメリカ国民に投票する気を失くさせるような活動は行っていない。当社の企業努力は選挙における投票者数を増加させることに専ら向けられている」

世界はひっくり返ってしまった。イギリスはEUを離脱しようとしており、ドナルド・トランプはアメリカ大統領に就任した。そして、心理的ターゲッティングを政治的環境で使用することの危険性を警告しようとしていたスタンフォード大のコジンスキーの元には、またもや、非難のメールが殺到している。「違う」。コジンスキーは頭を振りながら静かに語った。「これは私の責任ではない。私は爆弾を作ってはいない。私は、そういう危険が存在することを示しただけだ」

本レポートの追加調査は、ポール=オリバー・デハイエによるものである。
http://www.personaldata.io/
posted by たカシー at 22:42| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする